67.死者のビデオテープ①(怖さレベル:★★★)

(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)

『10代男性 進藤さん(仮)』


昔、よく流行した、呪いのビデオって分かります?


あ、今はビデオっていってもわかりませんかね……

DVDとか、Blu-rayじゃないと。


一昔前、そういう映像系のもので、

『見たら呪われる』『見たら死ぬ』系の怖い話が流行ったんですよ。


ほら……貞子、とか有名でしょう?

当然、僕が学生だった頃にもそんなのが流行りましてねぇ。


でも、ほとんどがガセネタ。

偽物掴まされるわ、中身もチープなもんばっかだわで、

さんざんな目になっていたんですが……


そんな中で、一つだけ。

不可思議な映像を、見てしまったことがあったんです。




そう、当時、僕は決してマジメとはいいがたい大学生でして。


単位はなんとか落とさずにすんでいたものの、

まぁバイトを掛け持ちしたり、夜遊びに明け暮れたり、

今思い返すと学費を出してくれた両親に申し訳ないような生活を送っていました。


とはいえ、都内で一人暮らしの僕や仲の良い友人たちは免許も持っていないし、

学生の夜遊びランキングトップ10には必ず入っているであろう

肝試しというイベントは、ほとんど実施したことがありませんでした。


それに、元来僕自身ビビりな性格で、幽霊なんて見たことはないものの、

友人が肝試ししよう! と声をかけてこないことに、内心ホッとしていたのです。


しかし、そんなある日。


バイトから家へ戻ると、勝手知ったる友人が、

傘立て下に隠していたカギを使っていつの間にやら侵入し、

のんびりと僕の部屋の漫画を読んでいたんです。


「おー、おかえり、進藤」

「……ただいま。なんだよ、家追い出されたのか?」


この友人、村中という男はしょっちゅう何ごとかをやらかしては

実家からたたき出されているので、

今回もそのクチかと荷物を片付けながら尋ねると、


「ハハッ。今回はこれだよ、これ」


と、何のラベルも貼られていない、

まっさらなビデオテープを取り出したのです。


「はぁ? なんだよそれ……裏モン?」

「ま、ある意味な。……これは、呪いのビデオテープ、さ!」

「おい……またかよ」


僕は心底呆れて、ドサッと床に腰を下ろしました。

この村中がその手のビデオを入手してくるのは初めてのことではありません。


最初に話したとおり、パチモンを掴まされるのが大半で、

この前など、ハタ目にも素人が作ったとわかるようなお粗末な

自主制作ホラーもどきが入っていて、

なにやら値段も高かったらしく、さんざん懲りた筈でした。


「いやぁ、こりゃホンモノだぜ? なんせこれ、

 マジで死人が出てるっつー触れ込みだから」


しかし、めげない村中は、芝居がかった素振りで声を潜め、

ニヤリと唇の端を吊り上げました。


「はぁ……死人、って大きく出たな。なんだよ、観たら死ぬ系?」


僕は多少気後れしたものの、気丈にふるまって続きを促しました。


「いんや。中の映像のどっかに死人の声が入ってるっつーやつ。

 なんでも、聞こえるヤツと聞こえないヤツがいて、

 聞こえたヤツには……って話だぜ」


と、そんな口振りの割にはひょいひょいと

雑にテープを見せびらかしてきます。


「死人の声? なんだそりゃ。聞いてそれってわかんのかよ」

「借りたヤツらの話によりゃあ、

 聞こえちまったヤツは気が狂ったとか事故ったとか、って話だけど」

「おいおい、そんな物騒なモン、誰に借りたんだよ」

「アレだよ、アイツ。白ぶち君」


彼の言う白ぶち君というのは村中のバイト仲間で、

いつも白ぶちの太フレームのメガネをかけていて、

そのあだ名が定着したのだそうです。


「あー……じゃ、ちょっとマジっぽいか」


その白ぶち君は大のオカルト好きらしく、今までいくつか

ゲームらやらホラー映画やらを借りていましたが、

この村中が自分で調達してきたものに比べれば、抜群に”らしい”ものばかりでした。


「つーか、そういう白ぶち君自身は大丈夫だったのかよ」

「ああ、聞いてみたけどわかんなかったっつってたぜ。

 アイツ、霊感ゼロらしいからなぁ」


と言いつつ、さっそく彼はうちのデッキにそれをセットしようとし始めました。


「ちょっ、おい! 本物をうちで観る気かよ!」

「えーっ、いいじゃん。オレんちのブッ壊れてて再生できないんだよ」


と、村中はヘラヘラと悪びれもせずに言い放ち、

止める間もなくそのビデオはデッキに吸い込まれて行ってしまいました。


「あーあ……」

「ほらほら、観念して観てみよーぜ」


ウキウキと上機嫌にテレビの前に陣取った奴の隣にしぶしぶ腰を下ろし、

気がすすまぬながらも画面に視線を向けます。


ザーッ……


砂嵐から始まった映像は、プッ、という軽い音と共に、

唐突に開始されました。


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