67.死者のビデオテープ②(怖さレベル:★★★)

「ハハッ、『突撃呪いの家』、なんてダッセータイトル!」


村中が、画面に表示された手書き風ポップを見て、

ゲラゲラとしょっぱな笑い転げています。


(これ、やっぱニセモノじゃないのか……?)


その疑念は、期待外れ感のある雑な画面転換で、

いたってフツーの民家が映された時、さらに強まりました。


「呪いの家ってなぁ……たしかに周りは暗いけど、

 普通にキレイな家だし、電気だって点いちゃってんじゃん」


団地の中なのか、他にも似た民家はたくさんある上、

ツタが這っていたり、庭が荒れていたりすることもなく、

うちの近所にもありそうな、なんの変哲もない家なのです。


『さあ、ここがウワサの呪いの家ですね~。入ってみましょう』

「……うわ、めっちゃ大根」


僕が苦笑してしまうほど情けない棒読みっぷり。


「こりゃあ、ヒデェの掴まされたかなぁ……っと、電話だ」


村中が、まだ再生の途中なのに、PHSに着信が入ったらしく、

席を立ってしまいました。


「あ、オイッ」

「ま、先にのんびり見ててくれよ~、面白いトコあったら巻き戻しといて。

 ……あ、どーも、村中でーす」


無責任に言い放った奴は、PHSでなにやら話を始めつつ、

部屋の外へと出て行ってしまいました。


「…………」


残された僕は気まずい沈黙とともにテレビに向き直りました。

その一時停止されたビデオ画面に、思わずため息がこぼれます。


(……面白いトコ、ねぇ)


気は進まぬものの、村中が戻ってきてまだこの画面では格好もつかないと、

苦し紛れにやや音量を下げ、続きの再生に入りました。


『この家に住むと、その住民は非業の死を遂げてしまうんだそうですよ~』


間延びした緊張感のないリポーターの声が、

まったく恐怖感を煽ることなく進行していきます。


室内は照明でこうこうと明るく、

撮影人の誰かが疑問に思わなかったのかと

逆に不審に思うほど、至って普通に生活感のある家です。


このリポーターの言葉を借りるなら、

非業の死を遂げてしまうはずのその家で、

今現在、まだ誰かが住んでいるかのような。


(……これ、撮影してる奴らの誰かの家なんじゃ)


だとしたら、自分の家を呪いの家、などなんともバチ当たりなものですが、

自主制作で金もなければ、そういう手段を使うしかないのかもしれません。


『そして、この家で一番問題とされているのは、

 ホラーの定番、風呂場なんですね~』


スイスイと間取りを把握しているかのように

淀みなくリポーターは進んでいき、

風呂場へ続くとおぼしきドアノブに手をかけました。


『さて、こちらで……おっと、ノブが……何か引っかかっているみたいですねぇ』


と、今まで何ごともなく進行していた映像に、

初めて何かが起こる予兆が見え始めました。


『ぐっ……いやぁ、なかなか引っかかってて……む、っ』


リポーターが押したり引いたりしているものの、

ガタガタと扉が揺れるばかりで開く様子はありません。


『……これは仕方ありませんね。他を回って、最後に再び訪れてみましょう』


と、リポーターが諦めの表情で踵を返したその時。


……キィー……


小さく音を立てて、浴室の戸が開きました。


(……おっ)


これはなかなか、と僕が少し感心したその時。


『あっ……ちょっと!』

『シノさん、まだダメッ……って、あーあ』


リポーターの男性と、外野らしき人の声が入りました。


『カットだよカット!』


いかにも不機嫌そうなその声に、

ああ、仕込みが失敗したのか、とようやく合点が行きました。


『これで一回、リビングの方を回ってから開ける、って行ってたのに、もー』

『シノさんなぁ……詰めが甘いから……』


どうやら撮影はそこで中断になってしまったらしく、

ガリガリと頭を掻くリポーターの後ろから、

ガヤガヤとエキストラらしきお化けの衣装を

まとった人たちが出てきてしまいました。


(なんだこりゃ……やっぱ騙されたな、村中のヤツ)


ホームビデオまがいのモノを見せられて、

こっちのテンションはガタ落ちもいいところです。


再生を止めてしまおうかとリモコンを手に取った時、


『おーい、シノさん。やり直し!』

『……あーあ、気まずくって出てこられないんじゃない?』


どうやら、タイミングを間違えた原因が、姿を現さないようです。


『シノさーん。もう一回撮り直しますから、イジけてないで出てきてくださーい』

『メンドクセーからさっさと連れてこーぜ』


一向に反応のないそのシノとか言う人物に業を煮やしてか、

例のリポーターの男と、幽霊の恰好をしたもう一人が、

薄く開いた扉の向こうに消えていく姿が映りました。


と。


>>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る