52.吊り橋で出会った子ども①(怖さレベル:★★★)
(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)
『20代男性 木ノ下さん(仮名)』
……あ、どうも。
以前、ガソリンスタンドで散々な目にあった、って話をしたんですが……
今回も、性懲りもなく肝試しをした時の話でもしようかと思います。
ええ? 前回、さんざん懲りた、なんて言ってたって?
(⇒https://kakuyomu.jp/works/1177354054893362626/episodes/1177354054893704814)
……はい、まったくその通りなんですが。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、じゃないですけど、
俺たち、ほんと根っからのアホだったんですよね。
それで、そこに行くことになったのは、
ある秋の日のコトでした。
その日、いつかのような夕暮れ時。
いつものごとく、俺達はファミレスに集結していました。
特になにか生産的なことをするわけでもなく、
ドリンクバーで居座ることしばらく。
俺と水島が、遅れてやってくるという原をダラダラと待っていた時です。
「お、電話」
水島が、ドリンクバーで作り上げた
コーラミックスジンジャーエールに口をつけつつ呟きました。
「あー、誰から?」
「えーっとな……あ、原だ。アイツ、まだこっち来られねぇんかな」
元々、原は時間を守る、ということに無頓着な男です。
水島が呆れたように画面表示を見て、そのまま携帯を放り投げてきました。
「ちょっとトイレ行ってくるわ。話聞いててくれ」
「おー了解」
ひらひらと片手を振って席を立った水島を見送り、
振動を続ける携帯電話を通話モードに切り替えました。
「もしもし? おい、どしたー?」
『お? その声は木ノ下か。悪ィな、遅くなって。もーすぐ着けるんだけどさぁ。
そんでさ……木ノ下、お前、車持ってたよな?』
軽い謝罪の言葉の後、それが本題であるかのように、
原は唐突に尋ねてきました。
「中古の軽だけどな。……なんだ、どっか行きたいトコあんのか?」
『いースポット聞いたんだよ! どーせヒマしてるだろ?
これから一発、肝試しにでもシャレこもーぜ!』
「肝試しィ?」
俺が間抜けな声を上げると、
ちょうどいいタイミングで水島が戻ってきました。
「肝試し? あのスタンドのやつ、だいぶヤバかったけどなぁ」
『お、水島! ありゃあヤバかったよなぁ~。
オレ、あと十五分くらいで着くから、詳しく話すわ』
「おー、待ってるぜ」
プッ。
通話が終わり、水島がテーブルに伸びながらのんびりと言いました。
「原、肝試ししたいっつってんのか?」
「ん。なんか良いスポット聞いたんだってよ」
俺は憂鬱な気分を紛らわせようと、
氷を詰め込んでキンキンに冷えたアイスコーヒーをぐっと飲み干しました。
なんせ、ほんの二か月前、
あのガソリンスタンドでの恐怖体験をしたばかりなのです。
元来小心者の俺にとって、その時の出来事はなかなかのトラウマで、
昼間であってもあの辺りを通ることはなくなりました。
「良いスポット……ってドコだろうなぁ。
よく幽霊って水場に居つく、とか言うじゃん」
しかし水島は、わりと平然とした面持ちで携帯で検索をかけ始めています。
俺は今日のこれからを考え、深々とため息をつきました。
「……趣味悪ィな」
開口一番、俺の口からはため息が漏れました。
「そりゃー、心霊スポットだからな!」
助手席でケラケラと笑うのは、肝試しの提案をした張本人の原です。
「……でも、吊り橋か。けっこー全国的にヤバい所多いみたいだけど、
うちの地元にもこんなんあったんだなぁ」
そう、原が聞いてきた心霊スポットは『吊り橋』です。
山の中にある自然公園につながる、かなりの大きさの鉄の吊り橋。
橋自体は、地元でも名の知れた大橋らしく、
マニアな雑誌にも掲載されることもあるのだとか。
「でもなぁ……あそこが心霊スポットなんて初めて聞いたぞ」
と、後部座席の水島が両腕をブラブラと揺らしながら言いました。
彼はこの吊り橋にも来たことがあるらしく、すぐに場所はわかったのですが、
水島曰く「なんてことのない吊り橋と公園」なのだそうです。
「いやー、オレも聞いたことなかったんだけど、バイト先の先輩がさぁ」
と、原がニヤつきつつ、指を立ててきます。
こいつが言っている先輩というのは、
奴の三つ上の女性で、原が狙っている相手です。
「最近、ここらで目撃情報が多いんだってさ。
行ってみたいけど怖い、なんて言うからさぁ。
じゃあ、俺と行きましょう! つったんだけど断られちゃって」
「オイ……断れてんじゃねぇか」
「ハハッ、でも代わりに、
行った感想を教えてほしい、なんて言われちゃってさー!」
ヘラヘラと笑う奴は、いかにもな下心がミエミエでした。
「なんだよ。お前の都合かよ、オイ」
水島が、後部座席から原の頭を小突きました。
「いーじゃんいーじゃん! お前ら、どうせヒマしてただけだろ?」
「まーそーだけどな……つーか、最近って……そもそも何が出るんだよ」
俺はハンドルを握りながら、一番メインとなる部分について尋ねました。
「ん~……さあ、なんだと思う?」
勿体ぶった言い回しで、奴は両手を上に上げましたが、
「ウゼェ」
「さっさと言えよ」
俺たちの攻撃にあえなく撃沈し、あっさりと口を開きました。
「……人魂、だってさ」
「人魂ァ?」
人魂、というと連想されるのは、
火の玉のように夜闇に揺らぐそれ。
「そ。橋の上に霊感があるヤツが行くと、
十やそこらじゃきかねぇくらい見えるらしい」
「そんなに飛んでるって……ホタルとかそういうんじゃねぇの」
人魂の集団発光、なんていかにも胡散臭さ満載です。
俺が疑惑のまなざしを向けているのに気付いたか、
原はチッチッと指を揺らしました。
「そんな単純な光じゃねぇらしいぜ?
それに、他にも変なモン見たって目撃情報もあるらしいしな」
「変なモン?」
「ああ。……みょーな女とか、子どもとか」
「……子ども?」
水島がピクリ、と反応します。
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