アリスと本屋(2)

 それから、1ヶ月経った頃。母親は、こんなことを思っていた。

 タイムマシンの完成の目処がたったなら、アリスに外の空気を吸わしてあげたらと。研究所にいるだけでは、世間知らずなると。

 アリス本人の要望で、この家の敷地からは、タイムマシンが完成するまでは、1歩も出ないと決めていた。父親との約束の決意。

 アリスのことだから、拒否するに違いない。そう思った両親は、アリスに内緒で一芝居うつことに。はじめてのお使いをさせる事に。


 父親はトラックを所持している。タイムマシン資材関係は、父親が全て準備。

 急遽、トラックのメンテをしないといけないことになり。どうしても今日中に、ある部品が必要になり、メモを準備した。

 父親は、アリスを資材置き場に停めている、トラックの所まで呼びだした。

「アリス。ちょっと車の調子がおかしくて……故障かな!? それでなんだが、いつも行く工場知っているよな!? このメモに書いている部品を取りに行ってもらえないか?  地図も書いているから」

 アリスは行きたくなさそうな表情で、そのメモを見ると。

「これって、この間取り寄せた部品……。何でまた!?」

 申し訳なさそうな表情で。

「……済まない。実は、数量を違えちゃって、申し訳ないないが行ってくれないか?」


 返事がない。余程行きたくないのか。


 そこで父親が。

「もしかして、外に出るのが怖いとか!? それはないよな!? だって12歳なんだから」

「別に、怖くはないけど……だって自分で決めた約束」

「それとこれとは違うだろう!? 行ってきなさい。これも仕事だろう!?」


 仕事と言われ、納得するしかないアリス。

 そこに母親が現れ。その恰好で行くつもりと言い。アリスに、自分の部屋に行くように言った。

 アリスは言われた通り、自分の部屋で待っこと15分。母親がアリスの部屋に。手には紙袋を持ち、アリスに渡し。その中身を見てアリスは、ベッドの上に広げた。そこには、新しい洋服とスカートにズボン。靴も用意していた。

 普段着が既に作業着のアリス。洋服は殆ど着ていない。休みはあるが、その時も作業服を着ている。

 たまに、母親はクローゼトの中を見て洗濯をしたり。アリスが年齢を重ねるごとに、中身を入れ替えていたことに気づいていないアリス。

 アリスは、着なれたズボンがいいと言う。母親は女の子らしく、スカートをすすめる。

 結局、スカートをはくことになった。

 この為に母親は、全身を映す鏡を用意。その鏡に自分を映すアリスは、少し笑みを浮かべ、照れくさそうに久しぶりの着る洋服とスカートに、少し違和感。

 やはり女の子、そう思う母親は、研究にのめり込むアリスに、そのことを忘れないようにと、そんな想いだった。


 アリスは、ふと窓外を見ると。夏も終わりに近づこうとしているが、日差しが眩しく、今日も暑そう。


 時計を見ると、午前9時半。

 はじめてのお使いのアリスだが、ドキドキしている様子はない。手には、花の絵が描かれた手提げ袋。ポケットには、ハンカチと懐中時計。それに新しい靴。その姿を4年ぶりに見た母親は、少し目頭が熱くなっていた。

 アリスは母親に行ってきますと言い。父親にも行ってきますと言い。その姿に少し驚く父親は、お昼にまでに帰って来るように言った。


 アリスは、ここの敷地を高い塀で囲んでから、1歩もその塀の外に出ていない。出入口は、車専用と人専用の2ヶ所。人専用のドアを開けると、驚いた。自宅の2階から見る景色と、ここで見る景色と違い。4年前と比べると、人通りは多く、車も増えている。

 アリスの行動範囲は、昔でも200メートル。地図を見ると目的地はここから南へ1.5キロ先。その方角へ、開き始めた。


 アリスは丘を少し下っていると、すれ違う人は大人ばかり。ふと近所の友達のことが浮かび。辺りの景色を見ながら歩いていると、工場まであと500メートルの距離に差しかかった時だった。

 反対側の通りに1件のお店が目に入ったアリスは立ち止まり。その店の看板には、アリス書店と書いてあり。本の買い取りもやっています、と書いてあった。もしかしたら、あの本屋は父親が言っていた本屋では、そう思ったアリス、また歩き始めた。


 道に迷わず、目的地に到着したアリスは、初対面の大人達に臆することなく、10分くらいで必要な部品を買い、手提げ袋に入れ。工場を出た。


 その帰り道。アリスはあの本屋の前でまた立ち止まり。ショウィンドーに飾ってある物を食い入るように見ていた。太陽の反射でキラキラと光り。しばらく見ていると、誰か声をかけてきた。

 そこには、ガラスに映る、老人の男の人。

「お嬢ちゃん。それ、何だかわかるかい!?」

 アリスは、突然声をかけられ、少し戸惑い。

「……分かんない」

「それは、シンデレラの物語に出てくる、かぼちゃの馬車だよ」

「シンデレラ……!? かぼちゃの馬車!?」

 言っている意味が分からない、アリス。驚くことを耳にする。

「……もしかして、あなたは、アリスって名前じゃ……!?」

 アリスは後ろを振り向き。

「えっ!? 何で私の名前を!?」

「やはりそうでしたか。どうりでよく似ている、若い時のお母さんに」


 更に驚くアリス、どうして母のことを。

 すると、おじいさんはアリスに、時間はあるかと聞き。アリスは30分くらいと答えると。おじいさんはこの本屋の主だと言い、見せたい本があると言った。

 2人は店内に入いると、驚いたアリス。外気温は30度くらいなのに、ここはアリスの部屋と同じくらい涼しい。店内には多くの客がいる。その中には涼みに来ている人もいる。

 そして、アリスが1番驚くのは本の数だった。こんな沢山の本を見るのは初めて。何か、ワクワクする。なんでだろう。昔、こんな思いをしたような。そんな思いに駆られるアリス。

 本屋の主は、店内を説明しながら、この広い店内の奥にあるドアの前に来ると。ドアに関係者以外立ち入り禁止と書いてある。

 ドアの鍵を開け、中に入ると。従業員が10人くらい。その中を更に奥へ行くと。またドアがあり、ドアの上には社長室と書かれていた。

 ドアを開け中に入ると、アリスと同じくらいの部屋の広さ。正面には、大きな木の机。その手前には、向い合せのソファーとテーブル。右側の壁には本棚があり、100冊以上の本がある。

 本屋の主はアリスに、ソファーに座るように言い、本棚から1冊の本を持って来ると。

 この本を読んでみなさいと言い。差し出した本のタイトルは、『「シンデレラ』

 その本を手にするアリス。鳥肌が立ち。まるで、速読術でも身についているのか、あっという間に読み終え。目の前のテーブルに本を置き、また本を手に取り、パラパラとめくり、テーブルに置き。何やら独り言を。

「確かに、面白いけどなー……」、何か考え込んでいる様子。

 それを見ていた本屋の主は。

「アリス、どうかしたのか?」

「……面白いのは、面白いけど……」

 アリスは、もしこの場面がこういう風に変わったらいいのにと説明をした。

 その発想に驚く本屋の主。この子の母親が言った通り、独特の発想をもっている。ひょっとすると、名のある小説家になるかもしれない。あのノートに書いてある小説を読んでみたい。完結はしていないと聞いているが。そう思いながらも本屋の主は。

「アリス、その発想は実に面白い。その方がかえっていいかもな、シンデレラ的には。ただ、その発想は現実的であり、これは童話。どうなんだろう、その考えは。悩むところだよな」


 アリスは童話と聞き、初めてあの本に出会った時、お母さんも言っていた、童話とは何。詳しくは聞いていなかった。本屋の主に質問をした、童話とは何。

 詳しく教えて貰い。その他にも、本にはいろんなジャンルがあることを知った。


 アリスは忘れたのか。科学者に関する本しか読まないようにしていた。それなのに、今はまるであの頃に戻っているような、本が大好きなアリスに。


 これは、4年間の時の流れ。ということなのか。


 本屋の主は、本棚からもう1冊、本を持って来た。

「アリス、この本だが……」

 本屋の主は部屋ある時計を見て。

「もうこんな時間。これはまた今度だな」

「おじいさん。その本は!?」

 本屋の主は机の上にある電話を取り、母親に連絡を。今から店を出ると。アリスは気になっていた、本屋の主が手に持っていた本。


 アリスは自宅に戻ると、午前12時少し過ぎていた。両親はご機嫌の様子。笑い声が聞こえ。何かいいことがあったのか。食事を摂らずに待っていてくれた。


 食事を終え。アリスは、母親と一緒に洗い物。久しぶりに手伝い。タイムマシン作りで疲れているからと母親は手伝わせなかった。

 洗い物が終わり。ソファーで3人くつろいでいると。アリスはどうしても聞きたいことが。

「お母さん。あの本屋さんことなんだけど」

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