六話

 帰り道、車内の沈黙を先に破ったのはもぐららだった。彼女は、珍しく弱弱しい声で、「やっぱり、ダメだった」と、車のエンジン音にかき消されるぐらいの小さな声で、ポツリと呟いた。重たい空気を吐きながらの呟きには、物事がうまくいかなかったときの、諦めが滲んでいた。一方の僕も違和感というか、少なからず、先ほどの闘いが予想外の展開になってしまったことに、戸惑いを感じていた。

 今夜の彼女と蚯蚓の闘いも、昨夜のように、命を懸けた一心不乱のものになると思っていた。もちろん、必ず彼女が勝利するのである。しかし、今回は、果たして彼女の勝利と言えるのであろうか? 確かに、今回の闘いでは、彼女は昨夜よりも圧倒的な力の差で、蚯蚓を追い込んでいた。けれど、追い込まれ、ねじ伏せられたのは、彼女もそうでなかっただろうか? だから、彼女は今、昨夜と違って、外傷もなく身体は無事なのに、昨夜より、弱弱しく、疲弊したように見える。その原因は僕でも分かっていた。あの、蚯蚓の口から現れた、女の顔との対話であったのは間違いない。もぐらはあの女に、殺さない、見逃す、と言っていた。その代わり人間を食うなと。けれど、そのもぐらのお願いは、あの女には訊き届けられなかった。あれは説得であった。敵を対話で説得する。そんなことも、もぐらはやっているのか? と思うのは、間違いかもしれない。それは、現在の彼女が、相当参っているように見えるからで、「やっぱりいつも通りダメだったか」というよりも、「自分の願いなど、やはりありえないことだったんだ」という風に、落ちるだけ落胆しているようであるからだ。一日しか一緒にいない僕だが、これは、普段あらざる彼女の姿なのであって、今回だけ、普段とは違う行動をとってしまったばかりに、こうして疲弊してしまったのではないだろうか。

「ああいうのはよくするの?」

「ああいうのって何?」

「蚯蚓への説得だよ」

「……初めてやったわ」

「でも、身体の構造というか、あの蚯蚓っていうのは、僕の知る生物では想像できない程、特殊だね。まさか、あの体内に人が入っているなんて思わなかったよ」

「あれは、元々人間だった頃の顔と頭よ。あれが、蚯蚓の身体に寄生していると言うのが正しいかしら。あの女は別に、蚯蚓の本体でも器官でもないの、ただ寄生して、蚯蚓の身体に好きなように干渉したりしているだけよ」

「てっきり僕は、人間の身体が、そのカフカスキーっていう男の魔法の力で、蚯蚓の身体になってしまったのだと思っていたよ」

「叶笑児にはそう説明したものね。実際は、カフカスキーは蚯蚓の身体を人間に提供しているのよ。人間はあれに寄生するだけ。だから何もしなくても生きていける。でも、意思を蚯蚓の行動に反映させることも出来る。人間を襲い、食べるのは寄生した人間の意思よ。蚯蚓に寄生して外界から遮断された人間は己の人格を制御するための自意識が消えてしまうの」

「もぐらは、あの女の意思を変えたかったんだね」

「そうね。でも、無理な話だったわ。やっぱり、あんな化物に寄生してしまった人間には、救いなんてないのよ。私がどうかしていたわ。妙な気を起こしたものだわ。蚯蚓に寄生した人間を救う唯一の解決策は、排除すること、本当これしかない」

 なぜ彼女は、今回、彼女の言うところの妙な気を起こしてしまったのであろうか? もしかすると彼女は、これまでの自分のやり方に疑問を持ってしまったのでないだろうか。

『蚯蚓に寄生した人間を救う唯一の解決策は排除』

 これを変えたかったのではないだろうか。僕は、人間の選ぶことに、絶対的な正解はないと思っている。迷いなんてなかった彼女もそう思い、迷いが生じたのかもしれなかった。一体、何が彼女を弱くさせたのであろうか。

この時の僕は、あまりに考えが浅はかで、周りなど見えていなかった。その証拠に、僕が彼女に影響を受けているのと同じで、少なからず、彼女も僕に影響を受けているなどとは、全く、これっぽちも、考えていなかったのである。人と人が交わるということは、お互いに、影響し合い、近づいていくことなのだ。それを僕はまだ知らなかった。



「うーん」

 後部座席で衣擦れの音がするのと同時にそんな声が聴こえてくる。どうやら、女の意識が回復したようだ。

「え、何ここ?」

 彼女はすぐに、ここが知らない車内であること、そして前の運転席に俺がいることに気付き、急いで自分の着衣に乱れやおかしいところがないかを、こちらから目を離さぬまま調べる。

「気付いたようだな」

「あなた、誰?」

「そんな警戒するなよ。俺はただ、倒れた君を介抱してあげただけだよ。自分が失神したの、覚えてないのか?」

「あっ……」

 途端、俺を睨んでいた女の顔が恐怖で固まり、戦慄する。目の前の俺のことよりも、恐ろしいことを思い出せたようだ。

「君が見たのは化物で、その化物の口から、君がよく知っている女の顔が現れた。違うかい?」

「……よくは知らないわ。ただ、一緒の職場の娘に似ていただけだし」

「いや、あれは君の言うその娘なんだよ。その娘、職場でどうしている?」

「今日、勤務日だったのにお店に来なかったわ。無断欠勤で、店長も、もう来ないだろうって」

「あの女が、あんな化物になって君の目の前に現れたのは、君を殺すためなんだぜ」

「はあ!? 何でよ!?」

「心当たりはないのか?」

「そんなのあるわけないわ。私、あの娘に恨まれるようなことなんて全くしていないし」

「君に自覚がないとしてもしかたないさ。あの女は、勝手に君を恨んでいるということもありえるわけだしね。ああいう根暗そうな人間は、……元人間か、他人の悪意を創造せずにはおられない被害妄想のひどい性質の奴が多いからね。例えばそうだな、君、職場ではあの女の先輩なんじゃないの? そんでよく、仕事のことで注意をしている。違うかい?」

「まあ、そうね。よくあの娘、ミスをするし、ボーと怠けるから。え、それだけであの娘……」

「そう、君の言った通りだけなら、そうなんだよ。たかが、よく仕事のことで注意していた。それだけの理由で、あの女は君を殺したいと思う程、君を憎んでいたんだ。きっと、あの女にとっては、君に受けたと思っているのは、注意されたという苦痛だけのことではないかもしれない。あいさつをしても返してくれなかったとか、皆と楽しげに談笑しているのに自分だけはその輪にいれてもらえないとか。だから、自分はあの先輩に嫌われているんだと、そうも、思っていたのかもしれない」

「そんな。だって私、あの娘のことを別に嫌っていたわけじゃないわよ。あの娘に限らず、職場で他の人を意図的に無視したことなんてないわ。そのあいさつをかえされなかったっていうのがあるのなら、それは私に聴こえなかっただけだし(あの娘すごく声が小さいの)、あまり話さなかったのも、あの娘、仕事に関しての質問以外、まったく他の人や私とも喋ろうとしなかったからよ。そんな娘と談笑しろ、というのは、私の仕事上の義務でもなし、やらなかったからといって非難されることでは決してないはずよ。だって、私の仕事はお店を回すことであって、あの娘のご機嫌取りではないわ」

「君のいうことは、全くその通りだろう。だから、君は悪くないし、もし殺されていても、それは君にとっては不慮の事故みたいなもので、君が殺されそうになったことに、君自身が感じなくてはならない罪悪感なんて、これっぽっちもないんだ。だから君は、何にも気負わずに俺の言う事を聴いて欲しい。やられっぱなしなのは君も嫌だろう。君にあんな目に遭わせた張本人、黒幕がいるんだ。俺はそいつを追っている。それの手助けをしてくれればいいんだ。分かった?」

「えっと、正直、関わりたくないんだけど。今日の夜の事はすぐ忘れたいし」

「君は何も分かっていないらしい。君が俺に協力しないということは、今日の夜の不幸の元凶をほったらかすにすることだぞ。また、あんな目に遭いたいのか? 忘れたいんだろ? 元凶が無くならない限り、忘れられないぞ。いつまた、覚えのない身勝手な悪意で殺されるか分かったもんじゃないんだ。黒幕はまだ、この町にいるかもしれないんだからな」

「もし、あなたに協力するとして、私は具体的に何をすればいいの?」

「それを言う前に俺が訊かなければいけない事がある。君の職場はどこ?」

「国道沿いにあるコンビニです」

「君を襲った女の名前は?」

「Mさんです」

「そうか。ならば、私と一緒に今からO県警に向かってもらう。そこで、俺が警察官相手にこう説明するから、君はそれに合わせてくれるだけで良い。俺は君が通り魔に襲われそうになっていたところを偶然助けた。君の身の安全は守られたが、しかし、犯人には逃げられてしまった。けれど、君は犯人に見覚えがある。どこで見たかというと、君の職場のコンビニだ。店の監視カメラをチェックしている時に写っていたように思われる。その時、今回の犯人らしき人物は、レジでMという女性従業員に会計をしてもらっていた。外見の特徴は、ハットを被った、杖を携帯した長身の外国人で、黒髪の青い瞳の外国人であった。良いかな?」

「そんな外国人の男、私みたことないわ。警察官相手に嘘をつくのは気が引けるんですけど……」

「俺はね、ある程度この事件の黒幕の正体を掴んでいるの。俺がいう外国人の男こそ黒幕で、そいつは必ずMに接触しているはずなんだ。それは君とMの職場ではないかもしれない可能性もあるが、考えうる可能性すべてを潰していくのが俺の仕事なんだ。俺はね、別にこの国の公僕じゃないから、君を命がけで助けなきゃいけないといういわれはなかったんだ。それなのに君を助けたのは、そう、善意なんだよ。だから君も、僕の仕事に善意で手伝って欲しい。俺一人には捜査権なんかなくて、O県警を介さないと、この町で調査が出来ないんだよ。だから、君のコンビニの監視カメラを調べるのにも、こういう回りくどいことをしなくてはならんわけだ」

 こういう頭を使わない若い者には、長々とした会話にロジックらしきものをいれ、多少の罪悪感を植えつけるようにして押し切れば、思考停止に陥ってくれる。この女もそうであった。

「分かりました。あなたが助けてくれたっていうのは、本当だろうし。でも、協力するのはそれだけですよ」

「ああ、もちろん、それでいいとも。ありがとう」


 俺は女を連れ、O県警に向かった。女はちゃんと俺の言う通りにしたので解放した。

 今朝、少年Fの頭が見つかった。昨夜の事件現場に近い家の庭で、転がっていたのだ。行方不明となっていた少年Fを重要参考人、被疑者として捜査していたO連続殺人事件捜査本部の面々は、少年Fも事件の七人目の被害者に数え、捜査が振り出しに戻った事に意気消沈していた。そのタイミングで、この女の情報である。O連続殺人事件捜査本部の一部(O県警の警部とその部下たち)は、女が襲われたと供述する外国人の男をO連続殺人事件の新たな被疑者として捜査することになった。俺は、彼らと共にMが勤めていたコンビニに向かった。夜中に起こされたのであろう、少し不機嫌なコンビニのオーナーに迎えられ、監視カメラの過去一週間のデータを借り受ける。

「Mさんはどういう娘なんですか?」

 警部がコンビニのオーナーにMに関して質問をする。

「まあ、真面目っちゃ真面目ですよ。欠勤も遅刻もないし。でも、職場には馴染んでいないね。他のバイト仲間と話しているところあんまり見たことないからさ。だから無断欠勤されたときは、とんだなって思いましたよ。まあ、よくあることですしね。Mさんに直接、その不審な男の話は聴かれたんですか? さすがに、警察相手にはとべないでしょうからね。ははっ」

「いえ、彼女、電話が通じないし、部屋に行ってみたんですが不在でした。Mさんの実家にも連絡を取ったのですが最近ずっと音沙汰もなく、行方は分からないということでした」

 当然である。Mはもう死んでいるのだから。

「え、行方不明なんですか!? じゃあ、Mさんも、その外国人の男に襲われて、もう、いないとか? まじかあ、なんでうちの従業員が狙われているんだ!?」

「まだ捜査中ですのでそれは分かりませんね」

「おまわりさん、はやく捕まえて下さいよ、そんな変態。バイトの皆がそれの影響で来なくなったら、うちの店が回らなくなっちゃいますよ」

「はい、こちらも全力で捜査しますので。ご協力ありがとうございました」

 俺たちは署に戻り、監視カメラの映像をチェックする。主にMが勤務している時間帯だ。Mは、俺が額を撃ち抜いた女の顔に間違いはなかった。勤務中のMは、身だしなみといえば真っ黒い長髪を輪っかゴムで後ろに結んだだけの、一重で化粧のしてないガリガリで地味な女であった。先ほどMに襲われた茶髪の化ばい女とは大違いだ。カフカスキーが選びそうな人間だなと思った。監視カメラにカフカスキーが写っていなかったら次にどうするか? 俺は、次の可能性を考えている。これまでずっと、尻尾を掴ませないカフカスキーである。監視カメラがあり、人目に付くコンビニで、次のターゲットに近付くとは考えづらいが、こちらは藁にもすがる思いなのである。それだけ、奴は手強い。俺はこういう仕事ばかりをしている。まるで幻を追っているような感じだ。けれど、どこかに奴は必ずいるわけだから、俺はそれを見つけ出さなくてはいけない。そして奴を、殺す。俺も、もぐらも、ドラゴン様も、それだけの為に今を生きている。

「警部! ネズミさん! 見つけました!!」

 映像をチェックしていた捜査員の一人が、大声を上げたので、俺たちはディスプレイの前に群がる。そこには確かに、ハットを被り、杖を携えた、背の高い外国人がいた。まぎれもない、そいつこそ、一度見てから忘れた事のないカフカスキーであった。

 カフカスキーの姿が映った画像をプリントアウトしてもらった後、俺は席を外し、電話をかけた。

「ネズミか」

「はい、お時間よろしいでしょうか?」

「進展でもあったのか?」

「そうです。カフカスキーが写った映像を入手しました。今から奴が写った画像を送ります……どうでしょうか?」

「間違いない。奴だ! ハハ、でかしたぞ!! この画像と俺の金を使えば、奴がどこにいたってすぐ見つけられるぞ。まだ、奴はその町にいるかもしれないんだろ? すぐに探し出せ!!」

「かしこまりました」

 

 朝、町に人の活気が湧いてきだした頃、俺とO県警の警部一行は、聞き込み捜査を行った。

「この辺で、この写真の外国人の男を見かけませんでしたか?」

「いやあ、見たことないねえ」

 これの繰り返しである。

町を歩いていると、見かける外国人と言ったらアジア系の人間ばかりだ。だから白人であるカフカスキーは、目立つはずである。見たことがあれば、忘れないだろう。俺たちは根気よく聞き込みを行った。

「ああ、このガイジンさん、みたことあるでえ」

 第一目撃者発見である。話を聞くと、写真の男らしき人間が、夕方、決まった時間に彼の家の前を通るらしい。俺たちは彼の家に案内してもらい、その周辺で集中的に聞き込みを再開した。すると、すぐに成果が上がる。写真の男の目撃情報が多数挙がったのだ。そのかいあり、俺たちは、写真の男が出入りしているというあるアパートへと辿りついた。アパートの住民にも聞き込みを行い、最近、一人身らしき四〇代の男が住んでいる部屋に、写真の男が出入りしているとの話も聞け、その男の部屋も特定した。俺たちは二手に別れ、その部屋の外に通じる窓のほうにも人員を配置後、部屋の扉に相対する。ノックをするが反応はなし。警部は令状を取りつけてくると言って、部下を連れて署に戻っていった。この部屋の監視は、彼の一人の部下と俺の二人に任された。アパートのその部屋を見張れるところに車を停めて、部屋の扉をずっと見つめるという退屈な時間の開始だが、そんなものはすぐ俺が終わらせた。一人を車内に残し、二人分の紙カップのコーヒーを最寄りのコンビニで買ってきた俺は、それに睡眠薬を混ぜ、そいつに飲ませた。夜、捜査のために一睡も出来ていなかったそいつはすぐに夢の世界へと飛び立った。この町でのカフカスキーの拠点を見つけ出せたのであれば、もう、警察の力など必要なかった。俺は一人で、部屋の前へと引き返し、腰のホルスターから拳銃を抜き構えると、扉を力づくで、蹴破った。たばこと何やら酸っぱい臭いのする、中年男の部屋だった。週刊誌、パチンコ雑誌、空き缶、空きビン、黄ばんだシャツ、レンタルDVD、吸殻の山が出来た灰皿、床に投げられた大量のカップ麺など、堕落しきって汚らしかった。しかし、それらを押しやり、ぽっかりサークル状に空いたスペースがあった。そこには、一台のコンポと一枚の手紙が置いてあった。俺は手紙を手に取る。


僕を追う者たちよ


毎度毎度、よくもまあ、君たちは飽きもせずに僕を追い回しては、僕の可愛い動物たちを殺してくれているね。ずっと見逃していたけれど、正直、君たちの存在が面倒になってきたよ。君たちは、僕の崇高な計画の進捗を何パーセントか遅らせているという自覚はあるのかい? ないとしたら、君たちを無知な赤子として見逃してやるから、金輪際、僕の愛すべき動物たちを殺すのは止めて欲しい。そうすれば、今までの君たちの狼藉は水にながしてやろう。しかし、もし、君たちが僕の邪魔を意図してこんなことをしているのであれば、別紙に記載した場所へ来てくれたまえ。僕が直接、お相手致そう。あの可哀想な女の子も連れて来るんだね。もう、僕たちの間柄に決着をつけようじゃないか。君たちのように怒りや復讐など、無駄な観念に取り憑かれた愚か者たちは馬鹿としかいいようがないね。僕はね、そんな風に、生きる意味も死ぬ意味も深く考えた事のない偽善者に目をつけられていることが、たまらなく不愉快だ。なぜなら君たちとは会話が成り立たないからね。君たちは別に僕と話がしたいのではなく、僕を殺したいだけなんだろ? 全くそれをして何になると言うんだい。それを考えたことなんてないだろう? 僕なんてただの動く肉と脂肪の塊なんだぜ。それを動かなくさせるのに、君たちは多大な労力と時間を使っている。馬鹿らしいね。もし、今が苦しくてそんな無駄なことをしているのであれば、僕に頼んでくれれば喜んで楽にしてあげるのに。楽に、というのは、僕の可愛い動物たちの仲間にしてあげるということだよ。もちろん、これを読んで改心したのであれば、別紙にある場所には来なくてもいいし、楽にしてくれと頼みに来るのもいいよ。僕は去る者追わず、来るもの拒まずだからね。そんじゃ、ふか~く、考えてから答えを出すように。あと、良ければ横にあるコンポの再生ボタンを押してみてよ。僕の好きな音楽が流れるからさ。感動したら、会った時に是非音楽の話でもしようじゃないか。人は芸術で繋がれるっていうのが僕の心情さ。こんな用意をしたのは、僕は君たちとは出来れば友好な関係を結びたいと思っているからなんだ。


迷惑と親愛を込めてカフカスキーより


 手紙を読み終えた俺は、電源が入ったコンポの再生ボタンを押してみる。流れてきたのは、曲名も知らないクラシックだった。あんな奴が聴く音楽など糞喰らえと、俺はコンポに拳銃をぶっ放した。そして部屋を出て、アパートから離れながら、もぐらに連絡を取る。

「カフカスキーの居場所が分かった。すぐに合流するぞ」

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