第8話

 ゴブリンの巣掃討当日。俺たちはゴブリンの巣から400メートルほど離れたところにある森が開けたところにやってきた。ここは以前の大規模討伐の時に切り開いた場所らしい。


「これよりゴブリン掃討作戦を開始します。討伐隊はゴブリンの巣に向かい、支援隊の護衛は持ち場についてください」


 護衛は支援隊の周りを8方向に配置される。俺たちの持ち場はゴブリンの巣から一番近いところだ。


「討伐隊結構いるね」

「そうだな。一気に潰すつもりなんだろう」


 いつか俺たちも討伐隊側になる時が来るのかぁ。なんか楽しみ。




「んーやることがない」


 ゴブリン掃討開始から1時間ほどたっただろうか。やることがほとんどない。というのも俺たちの持ち場は討伐隊がゴブリンの巣に向かう際に魔物を粗方倒していったからだ。これまでにスライム1匹しか現れなかった。


「1時間も経つしそろそろ討伐の方も終わりかな」

「どうなんだろうな。巣の規模がよく分からんし、普通どれくらい時間が掛かるものかも分からん」

「こういう依頼は初めてだからね」

「しかしこうも誰も戻ってこないものなのか?」

「ん? どゆこと?」

「いや、初めの方は怪我で戻ってくる人もいたのに、今は全然戻ってこないだろ?」

「んー確かに。でも強い奴は粗方倒し終わって今は雑魚を倒すだけだったりするんじゃない?」

「……そうだな」


 そして10分後、あまりにも討伐隊が戻ってこなさすぎるということで護衛から数名偵察に行くことになった。


「大輝! 俺たちも偵察行こ!」

「そうだな。行くか」


 偵察に立候補してゴブリンの巣に向かう。

 偵察メンバーは俺と大輝の他に2人、ギルバートさんとライルさんの4人だ。2人はDランク冒険者だそうで、大規模討伐などの依頼も何度か受けたことがあるようで、討伐隊が1人も戻ってこないのはおかしいということで、ゴブリンキングの異常個体がいるかもしれないらしい。

 異常個体というのは簡単に言うと魔力が異常なまでに多い個体で通常よりもかなり強いらしい。適正ランクも1~2ほど上がるようだ。通常のゴブリンキングの適正ランクは大体Dランクだが異常個体だった場合はそこから1~2ランクほど上がるのでC~Bランクになる。

 そして今回、討伐隊が全滅していた場合、Bランクの異常個体かもしれないらしい。

 巣に近づくにつれていい匂いがするようになる。これは血の匂いだろう。かなり濃い匂いだ。


「大輝、血の匂いがする」

「ああ。……深紅、涎垂れてるぞ」

「おっと」


 袖で涎をぬぐう。

 血の匂いがするとどうしても涎が出るんだよなぁ。


「2人とももうすぐ巣に着く、戦闘になるかもしれないから準備しておいてくれ」

「はい」

「わかりました」


 ギルバートさんに言われ、矢筒から矢を取りすぐに射貫けるようにする。

 それから少しして巣にたどり着いた。巣は崖の近くにあり周囲が切り開かれていて崖には大きな穴がある。そして切り開かれた場所には冒険者たちが山積みにされていてその隣ではゴブリンたちが冒険者たちを解体していた。

 山積みされている冒険者の中にはまだ生きている人もいるようだ。


「はぁ、こういうのは何回見てもはキツイね」

「生きてる奴もそのまま解体か。助けてやりたいが、一度報告に戻ろう」

「生きてる人たちを見捨てるんですか!?」


 戻るという言葉に大輝が反応する。


「ああ、そうだ。今はただのゴブリンしかいないが、あれだけの冒険者がやられてるんだ。きっと何かある。俺たちだけじゃ無理だ」

「それでも!」


 拠点に戻ろうとするギルバートさんに大輝が食い下がる。大輝は冒険者たちを助けたいようだ。


「僕たちも新人の時に魔物に襲われてる人を助けようとして死にそうになったことがあるよ」

「ああ、あの時は助けようとして結局返り討ちにあって偶然通りかかった高ランク冒険者に助けられたんだ。だから例え人が殺されそうでも格上の魔物には手を出さない方がいいんだ」


 勝てない相手からは逃げる。それは分かるけど目の前で人が殺されそうになってるのを見捨てるなんて出来ない……。


「あれ?」


 そんなに助けたいという気持ちにならない。いや、助けられるなら助けてあげたいとは思うけど、無理してまで助けたいとは思えない。なんか自分が薄情になったような、そうでもないような。赤の他人だしこんなものなのかもしれない。


「大輝……ん?」


 拠点に戻ろうと言おうとしたその時、なんだかよく分からないが空気がピリッとした。


「ねぇ大輝。今なんか……。大輝?」


 大輝の顔を見るとすごく青ざめていて、体が震え息も荒くなっていた。


「え、なに。どうしたの、大丈夫? ギルバートさん大輝の様子が……え?」


 ギルバートさんを見ると大輝と同じような状態だった。まさかと思いライルさんを見ると彼もまた2人と同じ状態になっていた。


「3人ともどうしたの? とりあえず拠点に戻ろう?」


 拠点に戻ることを促すが3人は動かない。それどころかさらに息を荒くして蹲ってしまう。


「えぇなんなのぉ」


 何かが起きているのは分かるけど何が起きているのか分からない。どうするか迷っているうちに洞窟から巨大なゴブリンが現れた。

 巨大なゴブリンは全身が異常に発達した筋肉で覆われた姿で冒険者から奪ったであろう大剣を持っている。


 うわー強そう。早く逃げなきゃだけど。


 大輝たちの方を見るが、まだ動けそうにない。大輝たちがこんな状態になったのはこいつのせいだろう。幸いまだ筋肉ゴブリンには見つかってないようだけど、もし見つかったら俺1人で戦わないといけない。


 戦っても勝てる気がしないから逃げたいんだけど大輝たちが動けないし、大輝たちを置いて逃げられないし。お願いだから気づかないで。


 筋肉ゴブリンは解体される前の全裸にされた冒険者を掴むとそのまま頭から食べだした。1人また1人とすごい勢いで食べていき瞬く間に3人ほど食べてしまった。


 3人食べたんだからお腹一杯になったでしょ、さっさと洞窟の中に帰れ。


 そう思ったとき近くから木の枝が折れたような音がした。


 えぇぇだれぇ。こんな時に枝踏んだのだれぇ。


 音に反応した筋肉ゴブリンがこちらを見て吼える。どうやら気づかれてしまったようだ。

 気づかれたのならもうやるしかない。筋肉ゴブリンを先にやりたいが大してダメージを与えられそうにないので、まずは草陰から普通のゴブリンを狙撃しながら飛び出す。筋肉ゴブリンは直ぐ様こちらに向かって駆けて大剣を振り下ろす。


「あっぶな!」


 大振りだったので横へ避けることができた。避けてすぐ雑魚を射貫こうとしたが、筋肉ゴブリンが横に大剣を薙ぎ払ったので距離を取る。


「うぅ雑魚を倒す隙がない」


 余所見をするとすぐにあの大剣の餌食になるだろう。どうやら先に筋肉ゴブリンを倒さなけらばならないようだ。

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異世界転生希望者 Ast @Astraea

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