第7話
あれから数日後、なんだかギルドが騒がしい。
「何かあったのかな?」
「受付で聞いてみるか。と、サラさんが受付をやってるな。すみません何かあったんですか?」
「あ、ダイキさんとシンクちゃん。今、ゴブリンの巣の駆除の参加者募集をしているんですよ」
へー巣が見つかったんだ。
「ゴブリンの巣が見つかったんですね」
「はい。昨日の夜に発見の報告が来て、今朝ギルドの調査員が確認しました」
「ゴブリンの巣の駆除って私たちも参加できる?」
「えっと、ごめんなさい。参加資格はDランクからだからFランクのシンクちゃんとダイキさんは参加できないんです」
だめかぁまだFランクだからなぁ。早くランク上げないと。
「んーそっかぁ残念」
「あ、でも支援隊の護衛の募集もしていてそちらのほうはFランクでも参加できますよ」
「支援隊?」
「はい、支援隊は討伐隊の支援をする部隊で、少し離れたところで陣地を作り怪我をした人の治療や回復ポーションなどの物資販売などをする人たちのことで、今回のような討伐隊が組まれるような依頼では支援隊が組まれることがあります」
大きな討伐依頼だとそういうのがあるんだ。
「そうなんだ。大輝どうする?」
「折角だし受けるか」
「うん、サラさん護衛の依頼受けるよ!」
護衛依頼は初めてだけど何事も経験、やってみる価値はある。それに討伐隊がどういうことをするのか見てみたいし。
「そうですか! ゴブリンの巣の駆除は明日の朝に開始ですので、護衛も明日の朝、開始となります」
「わかりました」
「じゃあ今日どうする? 何か依頼でも受ける?」
「そうだな……。今日は休んで明日に備えるか」
「うん、わかった」
今日は明日の準備だけしてしっかり休んで明日に備えよう。
「サラさんまた明日来るねー」
「はい。また明日、お待ちしてますね」
サラさんと別れギルドを出る。
「いやぁ相変わらずでかかったね」
「でかかったな」
「身長はあまり高くないのにね」
「童顔なのもなんとなくでかさを引き立てている気がするな」
サラさんは茶髪のセミロング。顔は童顔で身長は低いが胸がでかいという容姿だ。男性冒険者は皆、胸を見て話すくらいでかい。大輝もちらちら見てた。
「そうだね。大輝はロリコンになったんだね」
「なってない。大きいは正義ただそれだけだ」
「たとえ大きいが正義だとしても小さいは至高だから。ほら、見てよこのほんのりと膨らんだ胸を! 貧乳は硬いとかいう人がいるけど意外と柔らかいんだよ!」
そういって俺は胸を張る。
「お、おう。ローブを羽織っているからよくわからんが」
「むぅ……。じゃあ触ってみる? 触ったら柔らかさがよくわかるよ」
触れば大輝も貧乳の魅力に気づくはず。
「遠慮する」
「遠慮しなくていいのに。まぁそれは置いといてこの後どうする?」
「あーどうするか。元々依頼を受けようかと思ってたからなぁ」
「んー……あ、魔法具屋に寄って行っていい?」
「魔法具屋か。何か面白そうなやつあるといいな」
「うん」
「ついたー何かいい物ないかなー」
「面白そうなのがあればいいな」
ここはアクセサリーコーナーか。指輪にネックレス、ブレスレット。この紐は髪留め? これも魔法具なんだよね? 効果は魔力量が少し上昇と魔法効果の上昇。効果の説明が大雑把だけどまあまあいいのかな? 値段は1本銀貨12枚、なかなかの値段だ。でも髪型とか変えたりしてみたいし、買おうかな……。うん、赤いのを2本買おう。
「それ買うのか?」
「うん、髪型変えようかなって思って」
「これで銀貨12枚か。やっぱ魔法具は高いんだな」
「2本買うから24枚だね」
「2本買うのか」
「いろんな髪型してみたいし」
「そうか。俺も何か探すか。あっちの方見てくる」
「ん、わかった」
大輝と別れた後、暫く店内を見て回っていると鏃が緑色の矢を見つけた。
これは魔法の矢かな? えっと、これは風の矢で効果は風を纏い加速。そして纏った風で追加攻撃する。なるほど結構いい効果だ。お値段は……金貨1枚!? 高い! 矢1本に金貨1枚は高すぎる! …………それほどいいものなのだろうか。金貨1枚分の威力があるみたいな。
「い、1本だけ」
お試しで1本だけ買っちゃおうかな……。
「ふんふんふーん」
家に帰ってきて早速、髪を弄る。
んーこんな感じかな。うん、出来た。
「大輝、どう? 二つ結びにしてみたんだけど似合ってる?」
「ああ、似合ってる」
「ふふふ。さすがは俺、すっごいかわいい。もう抱きしめたくなるほどかわいい」
ほんとにもう完璧だよ。すべすべやわやわもちもちのほっぺとかずっと触ってたくなる。
「鏡の前で自分を抱きしめて悶える姿はすごくキモイな」
「ひ、ひどい! 悶えてる姿もかわいいよ!」
「とんでもないナルシストだな」
「仕方ないんだよ。こんなにかわいい深紅ちゃんが悪い。大輝もほらほっぺ触ってみてすっごい触り心地いいから! やばいよこれ癖になるよ!」
大輝に近づき、頬を触るように促す。
「そんなにか、じゃあ少しだけ」
大輝の手が俺の頬に触れる。
「おーこれは確かに触り心地がいいな」
「でしょ? 癖になる柔らかさだよね。特別にいつでも触っていいよ」
「そうか。じゃあ遠慮なく」
大輝はむにむにと頬を触る。
ふふふ、大輝もほっぺには抗えなかったか。
「……ねぇ」
「なんだ?」
「触りすぎじゃない?」
「お前がいつでも触っていいって言ったんじゃないか」
確かに言ったけど。10分くらい触られるとは思わなかった。
「いつまでも触っていいとは言ってないよ」
「駄目か?」
「え? いや、駄目じゃないけど」
「じゃあもう少し」
大輝は俺を膝の上に乗せて頬を触るのを再開する。
もうほっぺ中毒になってしまったようだ。
「そういえば大輝は何か買ったの?」
「ああ。自然治癒強化ポーションっていうのがあったから1本買ってみた」
「へぇそんなのあるんだ」
自然治癒強化ポーションか。一定時間持続回復する感じのやつかな。
「大体10分くらい持続するらしい」
10分か結構長いな。いや、長いのか? ゲームならそこそこ長いと思うけど現実だと短い気がする。
「どれくらい強化されるの?」
「効果:中って書いてあった」
「やっぱり大雑把だね」
「どの商品も効果が大雑把だったな。店員に聞いても重傷を負ってもしばらくすれば回復するくらいしかわからなかった」
「しばらくがどれくらいかかるのかわからないね」
使ったことがある人に聞くか試してみるかして効果を調べていくしかないようだ。
「これについては使ってみて効果を確かめてみるしかないな」
「いちいち誰かに効果を聞いていくのも面倒だしね」
「ああ。ところで深紅」
「なに?」
「暇、じゃないか?」
「……突然なんなの。いつものやつ? 今日は明日に備えて休むって言ってなかった?」
突然真顔になって聞いてくる大輝、今度は何をしようと言い出すのか。
「この世界はいろいろ新鮮で楽しい」
「うん」
「だが、何もしないとなると娯楽が少なすぎて暇だ」
「まぁ前と比べると娯楽は少ないかも」
前は漫画を読んだりゲームしたりして時間を潰せたけど、ここでは何もない。
「そう、娯楽が少なすぎるんだ。だから、サバイバルゲームみたいなのをやろう」
「なぜサバゲー。しかもどうやってやるの?」
突然サバゲーをやろうと言い出す大輝。サバゲー用の銃とかないんだけどどうするんだろう。
「着替えて外行くぞ」
「何も持っていかなくていいの?」
「ああ、手ぶらでいい」
「わかった」
着替えて庭に出てきた。
「よし、フィールドを作るぞ」
「どうやって?」
「土魔法を使うんだ」
そういって大輝は庭に10メートル四方くらいの線を引き、その中に土の壁を作っていく。
こいつもともと土しかなかったとはいえ、躊躇なく人の庭を改造しやがった。
「勝手にこんなことして大丈夫なの?」
「終わったら元に戻すから大丈夫だ。…………多分」
今、すっごい小さい声で多分って言ったよね。
「それより早く始めよう」
「始めようって銃とかどうすんの?」
「銃の代わりに水魔法を使うが、まずルールを説明しよう」
ルールは、銃の代わりに水魔法を使う。弾は掌からのみ発射可能で弾道を魔法で変えるのは禁止。つまり追尾させるのは駄目。弾の威力は玩具の水鉄砲程度。上空へ撃つのは禁止。胴か頭に水が当たったら負け。フィールドは線の中で外に出たら反則負け。
「ルールは覚えたか? あとは何かあったら随時追加しよう」
「わかった」
「よし、じゃあ初期位置についてくれ。上に火の玉撃つからそれが爆発したら開始だ」
「うん」
互いの初期位置は角で対角線上にある。初期位置に移動し開始の合図を待つ。
「それじゃ始めるぞ」
小さな火の玉が空に昇っていき爆発する。爆発といってもパーンと爆竹程度の音がするだけだけど。
そんなことより始まった。さて、大輝はどう来るだろうか。大輝は慎重だから基本的に待ちに徹するかな。足音は……聞こえないか。やっぱ待ってるか。なら俺もしばらく待とう。
…………動かないか。ちょっと揺さぶってみるか。ゆっくり移動しているかのようにその場で足ふみをする。反応は…………ない。仕方ない俺が動くか。
風が吹き、木の葉の鳴る音に紛れながら移動する。出来れば後ろを取りたいけど、初期位置にいるとしたら背後を取るのは難しいか。なら、初期位置に近づいたら一気に攻める。
ゆっくり静かに大輝の初期位置に近づいていく。残り3メートル。……残り2メートル、……残り1メートル。大輝の初期位置まで壁1枚のところまでやってきた。大輝はこの壁の裏にいるはず、あとはタイミングを計って……今だ!
木の葉の音とともに壁から飛び出し水弾を打つ。
「……あれ?」
いない。読みが外れたか。んーどこにいるんだろう。
「こっちだ」
「え?」
後ろから声がした瞬間、背中にひんやりとした感覚が広がる。
「あ」
「俺の勝ちだな」
「いつの間に……」
「近づいて来てるのに気が付いたから仕掛けてくるのと同時に回り込んだ」
「むーばれてたのかぁ」
足音には結構気を付けてたのになぁ。
「気が付いた時には結構近づかれてたから惜しかったな」
「もう1回! 次は負けないから!」
その後、日が暮れるまでやり続け結果は0勝7敗で惨敗だった。
「もう1回!」
「いや、だいぶ暗くなってきたしなぁ」
「ラストだから! そうだ、壁をなくそうそしたらすぐ決着がつくでしょ?」
「わかった。これで最後だからな」
「うん!」
庭を元に戻してラスト1戦。何としても1勝をもぎ取りたい。
「じゃあ始めるか。先に動いていいぞ」
「む、先手を譲るなんて随分と余裕だね」
「まぁな」
むー、舐められてる。でも、これまで全敗してるから仕方ない。
しかし、どうしようか。後ろを取りたいけど遮蔽物がないから無理だろうし、走り回ったところで体力を無駄に消費するだけに終わりそうだし、なら真正面から短期決戦が一番勝機がありそう。
大輝との距離は約10メートル。全力で走って接近して撃つ、大輝はそれを躱して反撃してくるだろうからそれを何とか躱してすぐに懐へ入って避けられない位置から撃つ。
いけるだろうか。この程度のこと大輝も想定済みじゃないだろうか。いや、駄目だろうこれじゃ勝てない。でも、たとえ読まれているとしてもやるしかない。……そうだ、読まれている前提で動こう。そして最後に裏をかいて意表をついてやれば勝てる。問題はどうすれば意表を付けるのかなんだけど。幸い大輝が舐めプしてくれているので考える時間はある。
……よし、大体の筋書きはできた。後は大輝が筋書き通りに動いてくれるかどうかだ。
「大丈夫、出来る」
大輝に向かって全力で走る。それに反応して大輝は撃ってくる。それを出来るだけ勢いを殺さないように右斜め前に躱してすぐに大輝に向かって手を伸ばしながら屈む。
おそらく今頭上を大輝が撃った水が通ったはずだ。大きく体制が崩れるけどここからが本番だ。
すぐに水を撃って前方へ飛び込みながらもう一度水を撃つ。
最初に撃った水は大輝が撃った水に当たり相殺される。自分の水が相殺されたことに驚いた大輝は反応が遅れ2発目の水をかろうじて躱す。その瞬間、大輝の腹部が濡れた。
2発目の水に注意が逸れていた大輝は俺が撃った3発目に反応が出来なかったようだ。
「やった勝った!」
「……負けたか」
「ふふん作戦勝ちだよー。1勝出来てよかったぁ」
「全勝するつもりだったんだがなぁ。……結構濡れたし風呂に入るか」
「うん!」
1発の水量が多いせいで全身びしょびしょになってしまった。
「次は1発の水量も減らさないとね。あと、弾数無限より有限の方がいいかも」
「なるほど。もう少し改良していく必要があるな」
「ふぅ……運動の後のお風呂はいいな」
「あ、髪洗うの手伝って。長くて大変」
「髪切ればいいだろ」
「切っても再生しちゃう」
「あーそうだったな。再生止めたりできないか?」
「んーそういうこと出来たら色々便利でいいんだけど今は無理かな」
再生速度を調節出来たら色々と便利かもしれない。例えば首を切って死んだふりとか。
いつもすぐに再生してたら死んだふりとかしてやり過ごしたりできないからね。
「明日の護衛は長くなるのかな」
「どうだろうな。巣の大きさ次第だろうがすぐには終わらないんじゃないか?」
「護衛は初めてだし、明日は頑張ろう」
「ああ、頑張ろう」
「あ、着替えがない」
帰宅後、お風呂に直行したため着替えを用意するのを忘れていた。
「大輝、パーカー貸して」
「ん」
何もない空間からパーカーを取り出す。自分の着替えもそこから出したのだろう。
「ありがと。でもやっぱいいなー」
「アイテムボックスか? あるとすごい楽だぞ」
「うあーいいなーと取っといたらよかったなぁ」
「いやお前アイテムボックスに気づいてなかっただろ」
「そうなんだけど、気づいてたら取ってたよ」
多分。
「まぁある程度は持っておいてやるから」
「うん。ありがと」
とりあえず着替えを何着か持っておいてもらおうかな。
「さて、腹減ったし飯でも食うか」
「うん。あ、先に着替えてくる」
「おう」
んーパンツはいてないとスースーするなぁ。違和感が凄いから早く着替えよう。
「あ、シンクちゃん! お風呂入ってたの?」
部屋に行く途中ユーナちゃんに出会う。
「うん」
「そっかー残念、一緒に入りたかったなぁ。あ、シンクちゃんご飯食べた?」
「まだだよ。これから食べるとこ」
「そうなんだ。じゃぁ一緒に食べよ!」
ユーナちゃんはそう言って俺の手を取り、ダイニングルームの方へ行く。
「あ、待って服……」
「ほら、早く早く! シンクちゃんたちいつもお肉を適当に焼いてるだけでしょう? 今日は私が作ってあげる!」
「うん、ありがとう。でも先に服を、あぁ……」
ユーナちゃんって意外と力が強いんだ。そう思いながら俺はユーナちゃんにダイニングルームへ連れられて行った。
「あ、ダイキさん。ダイキさんの分もご飯作りますね」
「いいのか?」
「はい、任せてください」
「それじゃ任せようか。ありがとうな」
「はい! じゃぁ作ってきますね」
ユーナちゃんは元気よく台所に向かっていった。
「……着替えに行ったんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど途中でユーナちゃんに捕まっちゃって」
「そうか。まぁ飯作るのも時間かかるだろうし、今着替えてきたらどうだ」
「そうだね。そうしようかな」
ご飯ができるまでの間に着替えるため部屋を出ようとした。
。
「あ、シンクちゃん! 折角だから一緒にご飯作ろ? シンクちゃんも料理できるようになった方がいいよ。私が教えてあげるから!」
まさに出ようとした瞬間にユーリちゃんが料理のお誘いをしてきた。
「深紅、呼んでるぞ」
「そうだね」
「大丈夫だ。ノーパンでも料理はできる」
「……そうだね」
ノーパン料理からの晩御飯を終え自分の部屋に戻ってきた俺はすぐにベッドに飛び込んだ。
「ふはぁ。なんか疲れたぁ」
着替えて大輝にパーカーを返さないといけないのだけど、このまま寝てしまいたいくらい。
「深紅、入るぞー」
「ふぁいどうぞー」
暫くベッドの上でうとうとしていると大輝がやってきた。
「……深紅、お前パンツくらい穿いとけ」
「んーわかってるんだけど、ベッドに飛び込んだら動きたくなくなっちゃった」
パーカーの裾を引っ張ってお尻を隠す。
「飛び込む前に着替えたらいいだろ」
「そうなんだけどね。飛び込みたかったんだよ。あ、パンツと服取ってー」
大輝に服を取ってもらい着替える。
「羞恥心のかけらもない脱ぎっぷりだな」
「羞恥心がないわけではないんだけどね。大輝以外の前で脱ごうとは思わないし、そもそもなんだろう、違和感ていうのかな。この体が自分の体って感じがあんまりしないんだよね。なんかゲームのアバターみたいな感じっていうのかな? だからこそこの素晴らしい体を自慢したいっていうか、ね?」
「ねって言われてもな。なんかよく分からんことになってるのは分かったが、早くその体になれたほうがいいぞ」
「そのうち落ち着くと思うから。あ、パーカーありがと」
元の俺を知ってるのは大輝だけだからついつい大輝に自慢したくなっちゃうんだよなぁ。この体なってからそんなに時間が経ってないし、そのうち違和感もなくなるだろう。
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