第3話

「……ん?」


 目が覚めると朝だった。固いところで寝たせいか体が痛い。


「起きたか」

「あ、うん。おはよう」

「おはよう」


 あれ? そういえばなんで朝になってるんだろう。


「大輝、なんで起こさなかったの?」


 あれだろうか、交代で見張りするといっておいて先に寝かせ、そのまま起こさずに朝まで寝かせてあげるというやつだろうか。


「いや、起こしたけど全く起きなかったんだ」


 ……違ったようだ。


「そ、そうなんだ……ごめん。今から寝る?」

「そうだな少しだけ寝るか」

「見張りは任せて!」

「ああ、頼む。1時間くらい経ったら起こしてくれ」

「わかった」

「あと、これ食っとけ」


 大輝はパンと水を出して俺に渡す。


「いいの!? 大輝ありがとう!」


 大輝は横になってすぐに寝息をたてる。

 やっぱり結構眠かったようだ。それなら1時間じゃなくて2時間くらい寝かせてあげたほうがいいよね。正確な時間もわからないしばれないはず。

 とりあえずパンを食べながらゆっくりしよう。




 ……………………やってしまった。

 1時間くらい伸ばしても正確な時間が分からないからないからばれない。うん、確かにばれなかっただろう。

 ……1時間なら。でも今は昼、太陽が真上にある。これは正確な時間がわからなくてもばれる。ばれないほうがおかしい。


「どうしよう、寝ちゃった……」


 そう、俺はパンを食べ終わった後のんびりとごろごろしてるうちに寝てしまっていた。


「とりあえず大輝を起こさないと駄目だよな……」


 怒られる覚悟を決め俺は大輝を起こす。


「大輝、起きて」

「…………」


 んー起きないな。


「だーいーきーおーきーろー」


 今度は強く揺さぶる。


「…………」

「お、起きない」


 大輝はまだ寝息をたてている。こうなったら最終手段だ。

 俺は大輝を仰向けにしその胸に向かってダイブした。


「……ッ!!」


 ……がその時大輝が目を覚ましたのか素早い動きで上半身を起き上がらせる。その結果。


「ふぎゅっ!」


 俺は地面にダイブし顔面を強く打った。


「は、はにゃが……」

「……殺気を感じたと思ったらお前はいったい何をしてるんだ」

「うぅ……にゃんれもにゃい」

「まあいいが、そろそろ行くか」

「あ……」


 大輝がかまくらの外に出ていく。いよいよ今が昼だとばれる時が来たか。


「……おい深紅」

「ひゃい!」

「これはもう昼だよな」

「そう、だね」

「1時間で起こせって言ったのになんで昼になってるんだ?」

「そ、それは……えっと、その……徹夜して睡眠時間が1時間じゃさすがに少ないかなって、それで……」


 2時間後に起こそうと思ってたら寝てました。

 最後のほうは声にならなかった。・・・・・・ヘタレでごめん。


「……そうか、確かに1時間は少なかったな。ありがとな」


 そういって大輝は俺の頭をなでる。

 頭なでられるのって意外と気持ちいいな……。

 でも俺は感謝されることはしてない、ただ寝てしまっていただけだ。なのに感謝されると心が痛い……。


「ご、ごめんなさい! 本当は1時間じゃ短いから2時間後に起こそうと思ってたんだけど、その……俺も寝てしまって起きたら昼になってただけなんだ! だ、だから……」

「そうか、でも2時間寝かせようとしてくれたんだろ? じゃあやっぱりありがとう、だな」


 大輝はまた俺の頭をなでる。


「あ、あぅ……」

「……それじゃ行くか」

「うん」


 しばらく俺の頭をなでた後、大輝はそう言い準備をする。


「大輝、これどうするの?」


 俺はかまくらを指さし言う。


「放置でいいんじゃないか? そのうち自然に崩れるだろうし」

「自然に崩れるんだ」

「土だからな」

「そっか」


 そういう事でかまくらは放置することになった。




 森を休憩しつつ歩いて2時間ほどした時、前方に一匹のウサギを発見した。

 だがこのウサギ額に鋭い角を持っている。


「大輝、なんか角生えたウサギがいる」

「……あのウサギ狩ってみるか」

「大丈夫かな? あのウサギ、実は強いとか」

「わからん、わからんが出来れば狩っておきたい」


 確かに異世界に来て初めての生物、そして貴重な食料だ。

 俺も大輝のパンに頼ってばかりってのは嫌だから狩りたい。


「まぁあのウサギの肉が食べられるかはわからんがな」

「角生えてるけどウサギだから大丈夫でしょ」

「それもそうだな。で、どうやって狩るかだが、近づくと逃げるだろうしここは魔法のほうがいいか」

「じゃ俺が魔法使う!」

「使えるのか?」

「うん、光魔法で視力を奪ってその後とどめを刺す。いける!」


 早速だけどやってみよう。イメージはカメラのフラッシュみたいな感じで。


「じゃあ使うよ。どうやったらいいのかな? 自分の前のほうに出るように……んー、発動しろ~……フラッシュ!」


 俺が発動した魔法が一瞬辺りを白く染め、ウサギと俺の視力を奪う。


「みにゃぁぁぁ目がぁ目が焼けるぅぅぅぅ」

「深紅!?」


 なにこれっ!? 目が滅茶苦茶痛いっ!

 俺は今まで感じたことがない目を焼かれているような痛みに地面をのたうち回る。


「おいっ! 大丈夫か!?」

「大丈夫じゃにゃいぃ。目が痛いぃ」

「はぁ……なんで自分で発動させた魔法を自分も食らってるんだよ」

「魔法を発動させるのに必死で目を瞑るの遅れたんだよぉ」


 しばらくしてようやく目の痛みが引いてきた。


「ウサギも逃げたし、少し休むか」

「……大輝」

「なんだ?」

「こっちに来てから頼りっぱなしで、全然役に立てなくてごめん……」

「……気にするな」


 そう言い大輝は俺の頭をなでる。


「ん……」

「しかし吸血鬼って本当に光が駄目なんだな」

「強い光を見ただけであんなに目が痛くなるとは思わなかった」


 今回のウサギは逃げていったからよかったけど、逃げずに襲ってくるような相手だったら洒落にならない。


「光魔法は封印かなぁ」

「他の属性も取ってあるんだろ? なら、そのほうがいいな」

「うん、全属性取ってる。でも、いつか光も普通に使えるようになりたいな」

「それにはまず光を克服しないとな」


 光を克服か吸血鬼って光を克服できるのかな?


「どれくらい掛かるかわからないけど頑張る」

「ああ、頑張れ」


 それからしばらくしてまた歩き始める。

 いつまで歩けば森を出られるんだろう。早く出られるといいんだけどなぁ。




 異世界に来て5日目の朝、俺たちは未だに森から出られていない。

 今は一昨日、途中で見つけた小さな川を、水と食糧に困らないし下った先に人が住むところがあるかもということで下っている。


「今日こそ人がいるところに出られるといいね」

「そうだな。というか、そろそろ本当にこの森を出たい」

「それじゃ、ちょっと水浴び行ってくる」

「ああ、俺は魚焼いとく」

「うん」


 川を見つけて水浴びができるようになったのは本当に嬉しい。

 俺は着ている服をすべて脱ぎそれを持ったまま川に飛び込む、川の深さは深いところで腰あたりまでしかない。


「あーやっぱ水浴びは気持ちいいなー」


 体を洗った後、さっきまで着ていた服を洗う。

 しばらく服を洗っていると近くの茂みが揺れた。

 危険な動物かもしれないと身構えていると。


「うん? 誰かいるのか?」


 茂みから出てきたのは金髪の青年だった。




「いやーびっくりした。何かいるのかと思って川を見たら全裸の女の子がいるんだからなぁ」

「あ、あはは……ちょっと水浴びをしてて」


 今、俺は大輝から借りたパーカーを着て、大輝が焼いた魚を食べながら茂みから出てきた青年と話している。


「あ、オレの名前はウィリアム、冒険者をしてるんだ。それでここには依頼できたんだが、お前たちはなんでこんな所にいるんだ」

「俺は大輝でこいつが深紅です。ここにいるのはちょっと迷ってしまって」

「そうか、ならオレが町へ案内してやろうか?」

「お願いできますか?」

「おう! あ、それと敬語で話さなくてもいいぞ」

「それはちょっと遠慮しておきます」

「別に遠慮しなくてもいいんだがなぁ。シンクはどうだ?」

「え、え? あー……じゃあ、わかりま……わかった」

「シンクは素直でえらいなぁ」


 ガシガシと頭を強くなでられる。


「いたいいたいいたい」

「おっと、すまんすまん。しかしお前らの髪、白と黒って珍しい色してるなぁ」

「そう、ですか?」

「灰色とかならあるんだが、真っ白と真っ黒は少なくともオレは見たことないなぁ」

「あ、お、私は人族じゃないから……」

「おい深紅!」

「あ……」

「……人族じゃない? まぁ他種族ならいるかもしれんが……。うーむ、どっからどう見ても人族なんだが」

「いや、その」

「魔族は……角がないから違う、獣人族は……獣耳とか尻尾がないから違う、精霊族は……筋肉達磨だったり耳が長かったり羽が生えてたりしないし実体もあるし違うか。そうなると残るはアンデッド族なんだが……ゾンビかグール辺りか? いや、それにしては腐ったりもしてないし意思をしっかり持ってるし……いやいやそれ以前にアンデッド族は基本的にギルドの討伐対象なんだが」

「ええ!?」


 なんか今すごく聞き捨てならないことを言ったような気がする!


「な、なんで!? なんで討伐対象なの!?」

「あ、やっぱりアンデッド族なのか。アンデッド族は基本的に本能や死ぬ直前の想い、大体恨みだな。まぁそんな感じで動いてるからな。中でもゾンビやグールは最悪だ。人を見かけるととりあえず襲って喰うからな。喰われた奴は体の欠損が少なければそこそこ高い確率でゾンビ、多ければゴーストになる。だからギルドじゃ魔物よりも最優先で討伐することになってる」

「お、私、人食べないよ!」

「ああ、わかってる。意思もちゃんとあるし俺が口添えするから大丈夫だろう。たぶんギルドに登録することになるだろうけどいいか?」

「え? うん」

「あ、結局シンクはアンデッド族の何なんだ?」

「えっと、吸血鬼」

「………………………………」

「ウィリアムさん?」


 ウィリアムさんがフリーズした。


「あ、すまんちょっと耳がおかしくなってた様だもう一回言ってくれ」

「……吸血鬼」

「ああ、吸血鬼か……本当に吸血鬼なのか?」

「う、うん」

「口をあけてくれ」

「わかった」


 ウィリアムさんに言われ口を開ける。


「確かに人族にしては犬歯が長いな。ちょっとそのままでいてくれ」


 そう言ってウィリアムさんは自分の指を少し切り、俺の口の中に入れる。


「んん!」

「少しでいいから血を飲んでみてくれ」

「……んむ」


 少しだけ飲んでみる。


「ん!」


 なにこれ! 滅茶苦茶美味しい!

 あまりに美味しくて飲むのに夢中になってしまった。

 足りないもっとほしいと、そう思い指に噛みつこうとしたとき。


「ふむ、もういいぞ」

「ふぁ……」


 俺の口の中から指が抜ける。

 ああ! もっと飲みたいのに!


「深紅、大丈夫か?」

「……え? あ、うん大丈夫」

「ならいいんだが。ところで今ので深紅が吸血鬼だって分かわかるんですか?」

「ああ、血に対しての執着がかなり強いしな」


 そういってウィリアムさんは俺の目の前で指を動かす。俺はその指をつい視線で追いかけてしまう。


「ほらな」

「はぁ……深紅、涎垂れてるぞ」

「あっ、と」


 大輝に言われ涎をぬぐう。


「うぅ、血を見るとつい目で追ってしまう」

「それにしても吸血鬼か……」

「吸血鬼がどうかしたんですか」

「いや、千年前に絶滅したって聞いてたからな。生き残ってたんだな」


 絶滅? 生き残った? なんかすごく不穏な単語が出てきたんだけど。


「吸血鬼って絶滅したの?」

「千年前の戦争を知らないのか?」

「うん、知らない。最近吸血鬼になったばかりだから」

「ちょっと待て、最近吸血鬼になったってどういうことだ? ハーフじゃないのか?」

「うんハーフじゃなくて普通の吸血鬼だよ」

「それは本当か?」

「うん、本当に元人間の吸血鬼」


 神様の力で吸血鬼になったし、元は人間だし嘘はついてない。


「ということはシンクは正真正銘のなんの混じり気のない純粋な吸血鬼ってことか? 吸血鬼の眷属とかじゃなくて?」

「? まぁそうなるかな?」


 ウイリアムさんは顔に手をやり顔を上に向ける。


「純血の吸血鬼の存在が確認されたのは千年前の1回だけだ」

「でも、絶滅とか複数いたようなこと言ってたと思うんだけど」

「純潔の吸血鬼は1人であとは全て混血だ」

「そ、そうなんだ。……純血はまずい感じ?」

「まぁ、そうだなぁ……」


 あ、これ駄目だ。居ちゃいけない生物的な。もしかしたら千年前の純血がいろいろやっちゃったのかもしれない。戦争して絶滅してるし。


「わ、わわ、私は! 何も、しない、から、大丈夫、だよ?」

「…………」

「本当に何もしないから、殺さないでぇぇ」

「いや、殺さないが……」

「ほ、本当?」

「本当だ殺さない。はぁ思ってたのと違うなぁ。吸血鬼ってもっと邪悪な感じだと思ってた」

「まぁ深紅はあまり悪いことはしないと思います」

「『あまり』なのか」

「『あまり』ですね」


 うぅなんか好き勝手言われてる。俺だって本気を出せばものすごく邪悪なオーラを出せるはず。


「千年前の吸血鬼って何をしたんですか?」

「ああ、何個か国を潰したりしてそれで当時の勇者と魔王が討伐したらしい」

「なんで勇者と魔王が……」


 勇者と魔王と言ったら敵同士だろう。なんで勇者と魔王が共闘してるんだ……。


「魔族側も町を何個か潰されてて、それで一時的に共闘したそうだ」

「……なるほど」

「それじゃそろそろ行くか? あ、そうだお前たち町に行って何か予定とかあるのか?」

「いえ、特にないですね。冒険者ギルドに登録くらいですね」

「そうか、なら町じゃなくて王都に行かないか? ここから3日くらいで行ける」

「王都、ですか」

「ああ、王都でもギルドに登録できるし俺のホームが王都だしな。何かとやりやすい」


 何かとというのは俺のことだろう。うん、俺のほう見ていったから間違いない。


「わかりました。王都に行きましょう。深紅もそれでいいな?」

「うん」

「よし! それじゃ早速行くぞ」


 こうして俺たちはウィリアムさんと一緒に王都へ行くことになった。

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