カワイイ妹へ、罰を与えよう

 さて。

 俺は決意も新たに、今日も今日とて爛れた関係を満喫したわけだが。

 ピロートーク代わりに、少しだけ、いやかなり引っかかっていたことを確認しようと、莉菜に話を切り出した。


「ところで、莉菜。おまえ、もうバイト代入ったのか? 薄い本を十冊も購入できるだけの」


「ぎくっ」


 なぜそこでギクッとするのか。

 意味が分からないので、脂汗を流しながら硬直している莉菜を、じっと見つめたままで黙り込む。


「じー」


「……ダラダラ」


 擬音で状況を語るのはこのくらいにしておいて。


 どうやら俺はツッコんではいけないところを的確にツッコんでしまったようだ。

 上半身だけ起き上がらせた俺は、偉そうに腕を組んでお金の出所について白状するよう、莉菜に促す。


「話せ。嘘をついたら……」


「つ、ついたら?」


「部屋に監禁した後に四肢切断してめくるめくリョナの世界へと旅立たせてやる」


「制裁が苛烈過ぎない!?」


「じゃあなんだ、全身を覆うラバースーツ着用したまま、死ぬまで廃工場の地下室へ監禁されるほうを選ぶか?」


「なんでそんなバッドエンド一直線の選択肢しかないのよぉ! わたしは伝説と化したエロゲーの登場人物じゃないからぁ!」


 全身ラバースーツなら顔が隠れるからそれはそれで……とか思ってしまったことは墓場まで持っていこう。

 仕方ないな、莉菜は行為が好き好き大好きだから。


「それが嫌なら、素直にゲロしろ」


「……えっと。お兄ちゃん、怒らない?」


「素直に白状するのと内容に怒ることはまた別の話だ」


 わりと八方ふさがりになった莉菜だが、やがて観念したように自白を始めた。


「あ、あのね、実は……」


「……」


「無断欠勤でミンラマをクビになっちゃって、仕方なくお金稼ぎのために……」


 嫌な予感がますます高まる。


「パコパコメールっていう出会い系サイトで、サポしてくれる人を探して……」


 腕の筋肉に力がこもる。


「お口だけっていう約束で、数人と会って……」


 腕が震える。


「その時稼いだお金で、ひーくんに相談に行って……余ったお金で、薄い本を……」


「……ひーくん?」


 ドスの効いた声が腹の底から出る。

 ああ、そういや宏昭から、莉菜が相談に来たって報告があったっけ。


 …………


 ぷっつーん! 

 バシンッッッッ!


「あべのはるかすっ!」


 思わず近くにあった枕で莉菜を思いっきり叩いてしまった。


「……おまえはぁぁぁ! デリよりも質悪いわ、セルフで枕営業してんじゃねえ!」


「やってない! そこではお口、お口だけだから!」


「もう道を踏み外したりしないっつーおまえの誓いが口だけじゃねえか! それで許されると思うなバカ野郎!」


 もうこいつとチューしねえ。気持ち悪いわ。

 俺は決意した。


 …………


 いや、もっとツッコまねばならない大事な部分があった。聞き逃さないぞ、今の俺は。


「……『そこではお口だけ』っていうのは、どゆこと?」


「……だらだらだら」


「まさか……宏昭とは……」


「だらだらだらだらだらだら」


 人を呪わば穴ひとつ、竿ふたつ。

 俺はまたまたキレた。


「やったん、かあああああぁぁぁぁぁい!」


 バコンンンッッッ!!!!!

 今度は二倍比で力いっぱい枕で莉菜を叩く。悲しいかなやわらか戦車並みの枕なので、全くダメージは与えられない。

 が、莉菜には俺の怒りがとてつもないダメージとなってしまったようだ。


「ちがうの、ちがうの! 愛してるのはお兄ちゃんだけなの!」


「それ使う場所間違ってないか?」


「寂しかった、さみしかったの! お兄ちゃんに抱いてもらえなくて寂しかったの!」


「へー、さみしかったら愛すらない宏昭に抱かれるんだー、へー」


「本当なのぉぉぉ! でもよくなかった、全然気持ちよくなかったぁぁぁ! もうお兄ちゃんじゃなきゃダメだって、今度こそわかったのぉぉぉ! もうしないぃぃぃ!」


「今更遅い。もうしないじゃなくて、今までしてきたことが許せんわ」


「どうかしてた、おかしくなってたのぉぉぉ!」


「うん、俺もどうかして……」


 便利な浮気テンプレにのっとって責め立てようとしたが。

 そこで自分のことを思い返してみた。


 確かに俺もどうかしてたわ。

 優花という彼女がいるから、莉菜とは仲のいい兄妹として付き合っていこう、なんて考えてたし。


 もう今さら、そんなこと不可能なのにな。


「……わかった」


「ふぇ?」


「確かに、俺も至らなかった部分もある。それに、莉菜が金を手にしたからこそ、俺の命が救われたわけだし」


「……あああ、お、お兄ちゃぁぁぁん……ご、ごめんなさぁぁぁい……」


 さめざめ泣いて反省する莉菜。

 仕方なしに俺は莉菜の頭をなでる。


「今回は、許そう。だが……反省の気持ちを証明するつもりはあるか?」


「うん、うん……もちろんだよ、お兄ちゃん……」


「……そうか」


 ここで俺が見せた、悪代官のような笑顔に、莉菜が一瞬おびえた。


「……な、なに? なにするつもり?」


「俺との誓いを破った罰だけは、受けてもらおう」


「ば、罰って……な、なんなの? 痛いのはイヤだよ?」


 大丈夫だ痛くはないから、と、おびえる莉菜にテレパシーを送りつつ。

 俺はゴソゴソと、秘密で買い置きしていたアダルティなグッズと、あやしげなローション類をベッド下から引っ張り出した。


 その中から電気マッサージ機を手に取り、にっこり莉菜に向けて微笑む。


「今日は罰として、俺が納得するまでこれらのマジックアイテムで莉菜を折檻する」


 莉菜の顔色が真面目に青く変わる瞬間である。


「や、やめてやめてお兄ちゃん! 死んじゃう、わたし死んじゃうからやめてぇぇぇ!」


「大丈夫だ、俺じゃないと気持ちよくないんだろ? 道具なんかで攻められても、大したことないよな」


「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 言質は取ったので莉菜に拒否権はない。残念ながら当然である。

 鳴り響く電動音をかき消すかの如く、ここから莉菜は奇声を上げっぱなしだった。


 そして後始末が大変だったことも記しておこう。


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