もうこいつの友人やめようかな
ヤマイと別れ帰宅した後。
スマホにメッセージが入ってるのに気づく。
『貴史、おまえ牧原さんと何があったんだ?』
宏昭からだった。
いや余計なお世話なんだが、なぜ宏昭がそれを知っているのか?
いきなり真相を告げるような真似はせず、探りを入れるところから始めてみよう。
『どうかしたのか?』
『牧原さんが相談に来たぞ。貴史が相手してくれない、着信拒否もされている、ってな』
……どゆこと?
『何があったかは知らないが、牧原さんを悲しませるなよ。おまえにはもったいない相手だというのに』
本当に余計なお世話だ。
これは俺と優花、ふたりの問題なわけで。おまけにこのメッセージに返事をできなかったかもしれないんだぞ、莉菜がいなければ。
全部説明するのも面倒だし、かといって事情を詳しく知らない宏昭に好き勝手ほざかれるのも腹が立つし。
『うるせえな。どうすりゃいいんだよ』
思わず感情に従ったレスを送ってしまった。
『大事にしてやれって言ってんだよ。そんなこと言うなら、俺が牧原さん奪っちまうぞ』
何も知らないやつからの忠告ってカッチーンとくるよな。
そうか、宏昭はそうしたいのか。ケッ、どうせ優花のことだ。宏昭に言い寄られたら、おそらくあっさりと俺から乗り換えるんだろ。
『好きにしろ』
やけっぱちメッセージ。
ま、もしも宏昭に乗り換えたら、もう優花に刺される心配も薄れるというもの。
…………
『そこまでずっと小杉っちのことを忘れられないなんて、男冥利に尽きるんじゃない?』
ああああああ。
どうすんの俺、ここでヤマイの言葉思い出して。
…………
刺されそうになったことでの怒りと、優花とちゃんと向き合わなかったという俺の至らなさが心の中でせめぎ合ってる。
『……本気か? なら、遠慮しないぞ』
宏昭からのレスを見て、今更優花と別れるのがもったいなく感じられる俺は、ただの欲張りなのか。二股、フタマタっていうの、これ?
『うっそぴょーん』
『貴史おまえいい加減にしろや! もう相手してられるか!』
宏昭がキレた。これに関しては俺が悪い、逆ギレできん。
もうさ、俺の心の天秤、傾きが変わりっぱなしだよ。
―・―・―・―・―・―・―
何がいけないって。
莉菜との行為で、背徳感というものをおぼえてしまったことなんだよな。
本番が許されないはずのデリ嬢と、交渉外の初体験。
実の妹とわかった上での、借金の返済代わりの性交渉。
こんなこと許されない、しちゃいけない、そう思えば思うほど、快楽が深くなっていくという罪深さ。
全く無関係な人間から見れば。
優花と莉菜、どちらを選ぶかなんて、中身がわからなければ明らかだよ。俺は愛おしいけど、それは実の妹だからというひいき目もあり、莉菜の容姿をそう思えてるに過ぎないんだろうから。
莉菜も、もう少し自分に合ったメイクとかしたならば七十点も超えることは可能かもしれないが、優花は俺以外のやつが見てもおそらく九十点くらいはいくはずだ。
…………
いやでも、莉菜はたぶん千枚通しで俺を殺りにくることは今後もないはず。
いのちをだいじに。これ基本。でも親バレしたらいのち以外に世間体も死ぬ。ここはネックだな。
…………
あと、いい方へと考えるならば。
優花は、自分のものにならないならば殺したくなるくらい俺を好きだった、とも解釈できる。
それまでの経緯はともかく、ヤマイの言葉を全面的に信用すると、優花は俺のことをずっと好きでいてくれたわけだ。
しかも、それまでビッチ街道速度オーバーだったくせに、修学旅行からあとは逆走するかの如く恋する乙女になっちゃったわけで。
こんなん聞いたらふつう感無量だろ。普通だったらビールかけしつつコロッとイッちゃうわ。
比べちゃいけないとわかりつつも、ふたりを比べちゃう。まさに外道。画像略。
まあ俺の立場に置かれれば、十人が全員比べちゃうだろう。というわけで自己を正当化して分析開始。
俺の気持ちは、いろいろトータルして、五分五分ゴブリン。二人とも苗床にする気はないけど。
未来の見通しに関しては、優花の勝利。
行為の気持ちよさに関しては、莉菜の圧勝。
今のところトータルでは莉菜の三馬身差勝利だ。
ああ、背徳感というものを味わってしまった自分が恨めしい。
こんな間違った性長するくらいなら、童貞でいればよかった。
ある意味俺らしい、ウダウダであるが。
しばらく経ってから舞い込んだ宏昭のメールで、そんな悩みが半分吹っ飛ぶこととなる。
『あのあといろいろ話して、俺、牧原さんと付き合うことになったから。よろしく』
三歳児の弾いたピアノ音が脳内で響く内容だよ。財〇一郎さんが踊ってるCMのほうではない。
どういうことだ、と焦って何度も何度もメッセージを送るも、既読スルーされまくりで詳細不明だ。こんちきしょうめ。
…………
自分から手放したくせに、怒りとむなしさと、割と大事なものを宏昭に奪われたというまぜこぜな気持ちが重すぎて吐きそう。
しかし、優花も優花だ、本当にあっさり乗り換えるとは思いもしなかったゆえに、ショックを受けたのは認めるとしても、だ。修学旅行以来ずっと俺のことを好きだとか言っておきながら、結局宏昭に口説かれたらあっさりなびくとは。
…………
やってられるか! もういいよ、俺のことを刺し殺そうとしたビッチ女のことなんてさ。クソヲタホストと、珍満四十八番勝負でもしていやがれ!
俺は莉菜と生きる。そして優花と宏昭はいつか息の根を止める、そう決めた。
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