別れたとたんに不謹慎
俺は息を切らしながら帰宅した。莉菜の姿はもちろん、家にはだれもいない。
ばらばらに逃げたから、莉菜と優花がその後どうなったかもわからないよ。誰か一人でも捕まったらすべてバレそうな気もするが、無事を祈るしかできん。
靴を脱いでも部屋に入る気にならず、玄関でうろうろ落ち着きなく時間を浪費していると。
「お兄ちゃん!」
やがて玄関のドアが開き、肩で息をしながら莉菜が戻ってきた。
「莉菜! 無事だったか!」
「はぁ、はぁ……な、なんとか巻いてきたよ……お巡りさん、わたしに狙いを定めて追いかけてくるんだもん……」
「すまなかった。助けに来てくれたのに、貧乏くじを引かせてしまったな」
「ううん、それはいいんだけど……いったい、何があったの?」
ごもっともな質問である。
リビングに場所を移し、俺は命の恩人にこれまでの経緯を説明し始めた。
―・―・―・―・―・―・―
「……彼女さん、バツイチだったんだ……」
「ああ」
リビングのソファーに腰かけながら説明終了。
だが莉菜はすべてを理解はできてないようで、眉間にしわが寄ってる。
「……まあ、そのあたりの事情はわたしにとって関係ないからいいんだけど。お兄ちゃんは、彼女さんとどうするの?」
どうするったってなあ。
即決即断だろうが熟慮を重ねた結果だろうが、別れる一択しかないよ。というかすでに別れ話は済ませてるし。
「もう、別れたよ」
「えっ」
「ちゃんと話はした。優花は納得してなかったかもしれないけど。だからあんな展開になったんだが、そのせいでますます別れるという選択肢しかなくなったよ」
「……彼女さんも、デリ、してたから?」
「は?」
俺が結論を述べた後に、莉菜からツッコまれるとは思ってなかったので、間抜けな返事をしてしまう。
「彼女さんがデリしてたから……世間一般から見て不埒な仕事してたから、だから、別れたの?」
「……」
真剣に訊いてくる莉菜の言葉で、俺は改めて考える。
ぶっちゃけ、そのあたりはどうなのかと言われれば、気にはなるけど一番の問題ではない。むろん俺と付き合ってる傍らでデリされてたら絶縁ものだが。
過去は過去で、俺と付き合ってないときに他の男と関係を持とうが、嫉妬すべきところではないかな。もやもやはするけど。
むしろ問題なのは。
曲がりなりにも『旦那』という一生ともにするかもしれない相手をないがしろにして、優花が浮気を繰り返していた、というところなんだよ。うん。
「……そう、だよね。デリなんかで働いてて、何人もの男にさんざん揉まれたり舐められたり突っ込まれたりした女なんて、汚くしか見えないよね……」
「いやあのね」
「だから、彼女さんが汚く見えて耐えられずに別れたんでしょ? そして、わたしも同じ……」
無言で考えこんでいたのがよくなかったか。
俺が懸念材料を説明するよりも先に、勝手に自己完結をしてしまった莉菜は何やら悔恨の弁を述べ始めた。
「ホストクラブにハマった挙句にデリで稼いでたわたしの汚い身体なんか抱きたくないから、お兄ちゃんが言い訳をしていたのも、今ならわかるよ」
「だからな俺の話を」
「だけど、お兄ちゃんにとってはなにがあろうとわたしが妹である事実は変えられない。だから、こんな汚いわたしを妹として見ることから始める、お兄ちゃんはそういう気持ちだったんだなって……う、うぅ……」
あかん、自分で自分にダメージを与えるような言葉ばっかり並べたせいか、莉菜がだんだんうつむきながら負のオーラをまとってきた。
兄として、しかたない。否定しとくか。
「ちがう、っつーの!」
「……え?」
「莉菜のことを汚いとか思ったことはない! 他のやつにやられたりしたら怒りにも似た感情が出てはくるだろうけどな!」
「え、えっ……」
「ただ単に、莉菜を妹としてでなく、単なる性欲処理に使っているんじゃないかという自己嫌悪がものすごかったんだよ、俺は!」
「……」
「こんなんじゃ兄じゃない、莉菜に好かれるような兄にはなれない! そう思い直し、俺はやせ我慢してただけだ!」
莉菜が固まる。
どういう自己完結がされていたのかはよくわからないが、ネガティブなほうへと考えていたことだけは間違いないはず。見てられない。
結局、ずっと黙っているはずの本音を暴露してしまったわ。
それでも、莉菜は俺の本音を聞いて、思いつめた表情を少しだけ緩和させ。
目薬を差した直後のような瞳で、俺を見つめてくる。いや嘘言ったすまん目は前髪に邪魔されててはっきり見えない。そんなんじゃないかなと俺が思っただけ。
「何それ……」
「……すまん」
謝るしかできないってばさ、莉菜には。性欲に負けた兄のたわごとみたいになっちゃって、穴があったら入れたいわ。
「……そんなくだらないことを考えて、わたしのことをあんなふうに扱ってたの?」
「本当にすまん」
「……バッカじゃないの。わたしは、お兄ちゃんとじゃないと、もう満足できない身体になっちゃったの。他の人に抱かれても、お兄ちゃんより全然よくなかった。もうお兄ちゃんしか見えない、考えられない」
「……あ?」
聞き捨てならない言葉が混じってたぞ。俺はそれに反応し、つい眉をひそめるが。
そんな俺の様子などお構いなしとばかりに、莉菜は止まらない。
「お兄ちゃんが無理してまで、大事な妹として優しく扱われるくらいなら……いっそのこと、お兄ちゃんの欲望のままにめちゃくちゃにされたほうが、わたしははるかに嬉しいんですけどぉぉぉぉ!?」
「ぐはっ!」
出張でインターバルを置いたせいで少しだけ回復していた俺は、その言葉で理性崩壊。
「莉菜あああああぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃっ!!!」
莉菜をお姫さま抱っこしながら俺の部屋へ連れ込む。
──言うまでもないが、このあと滅茶苦茶精を出した。
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