俺はクズ、はっきりわかんだね
「言い訳がましく聞こえるかもしれないけど、あたしの心は、貴史を好きになったあの時から変わってないよ。それを一番に考えてた。今もそう。だけど、貴史はあたしを一番に考えてくれてないんだね」
さっきまで追及してたのは俺のほうなのに、なんで優花にやり返されてんだ。おかしい、不条理だ。
でもヤバいこれはヤバい。なにせ妹に童貞奪われて、かつ貸したお金を返してもらう代わりにさんざんヤリ……いやむりやり身体で返されていた、なんて知られたら、小杉家崩壊の危機どころかお引越し辞職のコンボまでおまけについてきてしまう。
「あたしという彼女がいるのに……妹さんと、そんなことしてるなんて」
「それは違う! 現に優花と付き合いだしたころから、莉菜とは一切身体のカンケイはない!」
「……ふーん。やっぱりね」
「あ」
墓穴掘ったー!
「あああ違う違うんだただ単に莉菜がホストクラブにハマって借金作ったためにそれを俺が建て替えたんだが莉菜が返せるめどが立たないから仕方なしに身体でいろいろ奉仕してもらって借金を減らすという荒業に出ているだけで俺がそんなことを脅したり口説いたりしてやらせていたわけじゃないんだお願いだから分かってくれ」
「……長いんだけど。三行でまとめてくれないかな?」
もう自分が何をのたまっているのか自分でもわからない。
「だから、優花と付き合い始めてから、莉菜とは一切何もない!」
「でも、借金のカタに、妹さんの身体を好きにしていたことは事実なんだね?」
「うっ」
「お金をもらってその対価に奉仕するデリヘルと、何が違うの? それは」
言い返せねえ。
確かにそうですよ。しかも最初の出会いもデリだったし。
「もしそのえっちな行為に心がないならば……貴史がしていることも、あたしがしていたことも、同じようなものじゃないのかな?」
「……」
「なんで、あたしばっかりが責められなきゃならないの? あたしの心は貴史にしかなくて、これからは身体も貴史だけのものだよ。本当だよ。なのに、貴史は……違うんだ……」
とんでもない屁理屈で追及してくる優花だが、こちらの旗色がBAD,BADDER,BADDESTですがな。ああ英語的におかしいということはわかってる。だがそんなことはどうでもいい。
どっちが悪いんだ。借金の代わりにという大義名分で快楽に溺れていた俺か、自称・俺への愛を貫くためにデリで働いていた優花か。
…………
外野から見ると、『似た者同士』でお似合いだ、なんて言われそうなもんだけど。
いや、ここで大事なことは、俺が今後優花のことを信用できるかどうか、ってことだよね。
拒否権なく、なし崩しでつきあい始めたはいいが。
…………
むーりぃー。
もり〇ぼは、いえにひきこもってしずかにしてますぅ……
というよりさ。
もともと、優花が俺の彼女なんて言う事実が、重すぎるもんだったんだよ。
冷静に考えてみろ、おそらく世間一般から見れば平均点未満の点数しかつけられないであろう俺に、九十点の彼女がいること自体叩かれ案件だろうが。
おまけに──あっちの相性も一方通行なんだぞ。
…………
そう考えると罪深い。優花と付き合うことが、今の俺には罪深い。
俺の気持ちを抑え込んで、このまま優花と付き合うことを継続したところで、いずれ破局を迎えることは想像に難くないわけで。
「……だまっていて、すまなかった。そうだ、俺は優花とつきあう資格などない穢れた男だ」
「えっ……?」
「こんな俺が、このまま優花とつきあうわけにはいかない。騙していたようになってしまいゴメン。もう、終わりにしよう」
即決即断。無駄に男らしい。開き直る俺に、優花が再度顔を青ざめさせる。
「え、ちょ、ちょっと、誰もそんなこと望んでない。あたしは望んでない」
「いや……もう、だめだろう。そもそも、俺みたいなモテない男が優花みたいな美人とつきあうなんてことが、無理だったんだ」
「え、ええ、いやだいやだそんなこと言わないでお願いだから。あたしはもう貴史しか見えない。貴史としかつきあいたくない。貴史としか突き合いたくないの」
なぜ『つきあいたくない』と二回言った。大事なことだからか。そこだけは納得するとしても、優花はテンパったままだ。
「お願いだから考え直して。あたしの至らなさは本当に後悔してるの。だけどこれからは一生貴史のことしか愛さないから、お願いだからそんなこと言わないで。経験人数を数えたら両手両足でも足りないけど、心が満たされたことは貴史とのえっち以外になかった。あんなに満たされることはこれからもない。だから、お願いだから捨てないで、すてない、でえええぇぇぇ……」
長い。だから三行にまとめろと何度言えば。なんかしれっと爆弾発言が混じってるようにも思えたが今それを追求するべきではないよね。
そう言って縋ってくる優花を、どうすればいいのか。そっちの方が問題なわけで。
「……すまない。実は、俺は背徳感がないと燃えない変態男なんだ」
もう背に腹は代えられぬ。最後の言い訳。
「え……」
「実の妹とそういう行為をしている背徳感にやられ、そういうシチュじゃないと興奮できない性癖になってしまった。だから、背徳感のない優花との行為にイマイチ燃えるものがなかった。すまない」
「な……なんで……」
「こんな性癖を持っている男が彼氏だなんて、優花がかわいそうだ。黙っていたことは本当にすまないと思っている」
「いやいやいやいやいやあああぁぁぁ……考え、考え直してえええぇぇぇ……おねがい、おねがいだからあああぁぁぁ……」
髪を振り乱して錯乱する優花が痛々しい。
が、ここで情に流されたらだめだ。
「こんな歪んだ性癖持ちの男のことは忘れて、優花はもっとお似合いの男と幸せになるべきだ。今までありがとう、さよなら」
「いやあああああああああああ! いや、だあああああぁぁぁぁぁ……」
身体に絡みつく優花の腕を無理やり振り払い、俺は背中を向けてそう告げる。
目を見てこんなセリフを言ったら、きっと潰れてしまうから。
ほんと、どこまでも自分勝手な俺だよ。
優花には、こんな自己中男に騙されたことなど忘れてほしい。俺が騙されたことは忘れてやるから。
──あーあ。変な噂立てられる前に、引っ越し、するしかねえかなあ。
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