浮気の理由は簡潔に、どうぞ
「以前、優花が住んでたところだよね。結婚しました、って葉書もらったから、憶えてる」
「……」
わざとらしくそう告げ、まずは反応を見てみる。
なんとなく青ざめたような表情の優花。もう事実知ってるから隠されても困るんだけど、反応をさせるには煽るのが一番か。
「優花、どうかしたの?」
「……あの」
ちょっとだけ意地悪な今の俺。
「あたし……あたし……」
優花も何を言いたいのか、言わなければならないのかわからないようだ。
少しだけ誘導してみよう。
「いやさ、優花も、わずかな期間だけど高槻市に住んでいたわけだし、そう思うと俺もなんとなく優花が住んでいたあたりを歩いてみたくなってさ」
「……」
顔色、青。
「葉書に書いてあった住所を参考にしてみたんだけど、
「……」
顔色、紫。
「……ねえ、ところでさ。優花は俺のことを忘れられないから、って言ってたけど、なんで結婚してすぐに離婚する羽目になったのか、具体的に聞いてなかったよね」
顔色、チアノーゼ寸前。
なんだこれ。悪いことしてる気分になるじゃんか。
実際に倫理に反する『浮気』をしたのは優花だというのに。
「あ、あ、あ……ちがう、ちがうの、あたしは本当に貴史しか愛してない、愛してない。浮気なんてしてない、絶対にしてない」
狼狽え方がすさまじいな。なにやら少し前の自分を見ているようだ。
「……浮気?」
「あああちがうちがう、浮気じゃなくてただの当てつけだった、騙された、いいように丸め込まれた」
「……ん?」
よくわからんなあ。
しかしこのままでは狼狽えたまま時間が過ぎそうである。
よし、さらなる燃料投下だ。
「……ゴメンね。実は、優花が離婚したわけを知りたくて、いろいろ調べちゃったりしたんだ」
「え……」
「そうしていろいろと聞いた。イケメンの旦那と結婚したけど浮気がバレて離婚したことも、慰謝料を払うためにデリってたことも。情報を集めた末に行きついた、エリナさんって人から詳しく」
「エリナぁぁぁぁぁ! 余計なこと言ってんじゃねえ、あのくされ×××! ころしてやるぅぅぅぅぅ! ×××に硫酸流し込んでやるぅぅぅぅぅ!!!」
優花豹変。鬼のような形相で恐ろしい単語を口走る姿はドン引き以外反応できないってば。
あとアシッドアタックは勘弁な。硫酸の脱水作用はマジパネェぞ。
今にも大阪へと行きそうな様子の優花を、背中から羽交い絞めにしておさえた。
何となく察してはいたけど、エリナさんと優花って犬猿の仲かもしれん。
「落ち着いてくれ優花。どういうことなのか詳しく説明してくれないか」
「違うの本当に違うのあたしが卒業式の時のコンパで酔って前後不覚になったときに思わず『たかしぃぃぃ、だいすきぃぃぃ』って口走ったのを勘違いされちゃってでもお酒の勢いがあったからついついホテルでえっちしちゃって運悪く妊娠したせいで責任取られたんだけど発言は誤解だって言っても信じてくれなくて結局流産しちゃったんだけどそれでも別れてくれなくて仕方なしに当てつけで貴史にそっくりな人と浮気したんだけどさすがにバレて有責で離婚するはめになって仕方なしにデリで働いてたけどいろいろ不都合があって愛人契約みたいなことしてただけなのぉぉぉ!!!」
長すぎる。誰か三行でまとめてくれ。
ただでさえ錯乱している優花の言葉など、冷静に聞けるはずもないし。
「本当に違うのあたしは高校時代からずっと貴史しか好きじゃないしこれからもそうなの!」
白々しく聞こえるのは気のせいじゃないとしてもだ。
「……でも、旦那がいる身で浮気していたのは事実なんだろ?」
「そ、それは……」
「それが事実ならば、これから俺と付き合っても優花が浮気しない保証はないよね?」
「しないしない絶対にしないあのときは貴史が結婚相手じゃなかったから浮気しただけで貴史が相手なら絶対にしないぃぃぃ!!!」
「うん、ごめん。なんか信用ができない……」
髪を振り乱しながら必死な優花に、百年の恋も醒めるわいな。
しかし、ここで思わぬ反撃に出られた。
「……貴史だって、人に言えないようなことしてたくせに」
「ぎくっ」
「わかるよ、貴史のことが好きな女だもん。妹さんと……えっちなことしてたでしょ?」
「ぎくぎくぎくっ」
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