兄として恋人として気が重い
「なんだ貴史、やけにやつれた顔してるじゃないか」
「……はあ……」
元の部屋に戻るなり、先輩からそう心配された。
いやそりゃそうでしょう、優花がビッチだったという事実はつきつけられたし、逆レイープされそうになったし。
「さては、また最高のデリ嬢にぶつかったな!? こっちは今回もハズレだったぞ、どうやったら貴史みたく当たりばかり見抜けるようになるんだ! コツを教えろ!」
だが、先輩はそんな俺の心の中など知る由もない。
誤解した先輩をどうやって納得させるか、それも骨が折れる作業だった。
―・―・―・―・―・―・―
そして、朝。
起きて最初に気づいたのは、宏昭からのメッセージ。
『おい、お前の妹、ウチの店に来てるんだが』
眩暈がした。
どうやらメッセージを受け取ったのは昨日の夜のことらしく、俺が体力を消耗しすぎて早々に寝てしまったので気づかなかっただけか。不覚。
ええい、メッセージでやり取りなんてまどろっこしい。早朝だがもう直接宏昭に電話だ。
プルルルル。
『おう、貴史か』
「莉菜を再び泥沼に引きずり込んだらお前を殺して俺も死ぬぞ」
『第一声にあるまじき物騒さだな。俺もアリスのUR引くまで死にたくないから、わざわざおまえにメッセージ送ったんだが』
宏昭もさすがに自分の置かれている立場を理解しているようである。
「……で、莉菜はどうした?」
『どうしたもこうしたもねえよ。お兄ちゃんが構ってくれない、ってすごく悲しそうにしながら来たぞ』
「……え?」
『全く、おまえは俺にあれだけ言っておきながら、肝心の妹のケアをしてねえのか。俺に物騒な言葉投げつける前に自分の行いを振り返れよ』
「……」
宏昭に言い負かされたことが屈辱で言葉も出ない。
というか莉菜のやつ、ホストクラブに行けるほどの所持金もってたのか……?
とっても訳せないレベルでイヤな予感がする。
とりあえず宏昭との通話を切って、今後するべきことはなにか、まじめに考えよう。
……しかし、東京に帰ったらやることがてんこ盛りだな。
莉菜を叱る、優花と話す。これだけでもSAN値をだいぶ削られそうだ。
…………
莉菜を叱るのはともかくとして。
優花とどうやって話せばいいんだろうか。
でも正直さ。
イケメンの旦那がいても浮気を繰り返した優花が、いったい何を考えていたのか。というかそんなことするくらいなら結婚なんかしなければよかったのに、なぜ結婚したのか。
それだけは知っておきたいんだよね。
じゃないと、俺は優花のことを信頼できなくなりそうだから。
―・―・―・―・―・―・―
そして帰京。
優花には詳しい出張先は伝えていない。いちおう東京駅に着いてから、『出張終わった』メッセージだけはしといた。
──さて、会社で雑務を終わらせてから、まずは莉菜を叱ってやらなければ。
などと思っていたら。
会社前で優花が待っていて、予期せぬ遭遇。
「おかえり、貴史。出張お疲れ様」
うわー。優花の笑顔が痛い。
面倒くさそうなことは後回しにするつもりだったのに、よりによって待ち伏せとは。
―・―・―・―・―・―・―
仕方なく会社の近くにあるスマタバックスコーヒーへ、優花と入店。挿入ではない、スマタだし。
しかし、なんと言えばいいのかいまだ考えをまとめてない俺は、当然口数も少なめだ。
「……そういえば、今回の出張、どこへ行ってたの?」
どうにも会話が弾まないムードの中、俺の向かいの席に座る優花がそう尋ねてくる。
仕方ない。
「大阪の……高槻市まで」
「えっ……え、ええ?」
すなおにゲロした出張先を聞いて優花が顔をゆがませるのを、俺が見逃すはずもなく。
…………
これはやっぱり、後ろめたい気持ちがあるってことだよな。
──覚悟を決めて、訊いてみるしかないか。
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