情報は正しかった、証明完了

 先輩と二人でいろいろ悩み、別行動後三十分ほど経って。

 なぜか俺の目の前には、エリナという六十八点のデリ嬢がいる。


「……なに? アンタ、そんなこと訊くために、アタシを指名したっての?」


「は、はい。おそらく知っているのは、エリナさんしかいないと伺ったもので……行為は結構ですし、お金は全額お支払いしましたので、お願いですから優k……『ゆうゆ』について知っていることを聞かせてもらえませんか?」


 ボディだけなら八十点、修正済み画像でなら八十六点くらいだったのだが。

 最近の画像加工技術ってのはすごいな。騙されたって苦情も多いんじゃないかコレ。


「……まあいいさ、金さえもらえればね。どうせヒマしてたし」


「指名はないんですか?」


「あんたいちいち痛いとこついてくるね鬱陶しい。長くやってれば、トップの画像が修正済みだって噂が、ネット掲示板なんかで広まるもんなんだよ」


 エリナさんの不機嫌そうな声。割と迫力がある。これがキャリアの差か。

 しかし、デリの評判ってそういう広がり方するもんなのね、ひとつ賢くなった。縛サイみたいな掲示板でかな?

 要は騙せない、って理解しとこう。


「所属先変えるとか出張するとかいろいろやりようあるじゃないですか」


「自分のダンナが経営者だってのに、そんなことできるかい」


「……は?」


 え、なにこの余計な暴露。つまり、この『キャンパスエイト』ってデリヘルは、エリナさんの旦那が社長、ってこと?

 なんで自分の嫁さんをデリ嬢にさせるかな。クスリキメて錯乱してんじゃねえのか、社長。


 ……はぁ。

 狂った世界の事情は自分をおかしくさせるので、必要な会話だけしたほうがいいな。経営者の身内なら詳しく知ってる可能性高いしね。


「で、何が聞きたいんだい?」


「あ、はい。実は俺、『ゆうゆ』の今彼なんですが」


「……え?」


 会話スタート直後。

 いきなり俺の顔を舐めるように見てきたエリナさんが、とっても気味悪い。


「へぇ……ほぅ……ふーん……」


「な、なんですか? そんなにジロジロと見る価値のない顔だと思うんですけど」


 俺はさっさと会話を済ませたいので、強引にガン見を終わらせる。


「……ま、どうでもいいけどね、忠告はしてやるさ。アンタにゃあの娘の相手は荷が重い。早いとこ別れな」


「ええ?」


「金もあるイケメンなダンナを持っていても、結婚当初から浮気を繰り返していた女だよ?」


「……」


「しかも当てつけのように、浮気相手はブサイクな男ばっかりだったようだね。ダンナにバレて離婚してから、金のためここに来たはいいけど。結局知り合いらしき客にバレて、繰り返し指名されるのが嫌ですぐやめたその後に……」


「……その後、どうしたかも知ってるんですか?」


「……出会い系サイトを利用して、自分で顧客を開拓していたような、身も心も汚れた女さ、あの娘は」


 聞き込みで得た情報がすべて繋がって、さらに新情報。わりと想像していたようなそうでもないような優花の過去だが、わかっていてもショックでけぇ。


 つまり、優花は。

 なぜかイケメン旦那と結婚したにもかかわらず、ブサイクな男とばかり浮気を繰り返し。

 浮気がバレて離婚されたときに慰謝料請求でもされたのだろうが、それを払うためにデリヘルで働き。

 そのうち優花を知っている客に繰り返し指名されるようになり、それが嫌でデリヘルをやめたけど。

 金は予定額まで稼げなかったから、出会い系サイトを使って自分で営業してた、てこと?


 それなら確かに、携帯番号などを変えていた件も説明つくんだけどさ。

 高校時代のあこがれだった相手がそんなクソビッチだったっていう、事実に対する絶望が深いわ。


 こんな外道な行為に比べれば、俺と莉菜がしてきたことなんて大したことじゃないんじゃないか。そう思える。

 外から見れば目クソ鼻クソなのかもしれんが、最初と最後はいかんでしょ。


 …………


「なんでゆうゆは、イケメン旦那がいたにもかかわらず、浮気を繰り返してたんですかね?」


「……さあ。浮気女の理由なんてわからないさ。でも、『結婚自体が間違いだった』とは言ってた記憶があるよ」


 浮気に関する疑問をぶつけてみたが、やはりそのあたりはエリナさんも知らないようだ。


 メッセージでだとはぐらかされることは間違いないだろう。これは、東京へ帰ってから優花に直接聞くしかあるまい。


 そして、その会話次第では──


「……ま、アタシが知ってるのはこのくらいさ。役に立ったかい?」


「あ、はい。役に立ちまくりです。じゃあ、時間はまだ余裕ありますが、これで……」


 すでに料金は払っているので、お開きにしようと思ったのだが。

 エリナさんは突然、ガッシと俺の身体を掴んできた。


「あいやー!?」


「ふふ、何ふざけたこと言ってるんだい。役に立ったことを感謝するなら、こっちもおっ立てな」


「い、いや、それは別に望んでいないし、レイナさんに旦那がいると聞いてしまってはそんな気に……」


「何言ってるんだい。アタシがこの仕事を続けている理由はね……」


 あ、エリナさんのこの眼、どっかで見たことあると思ったら。

 ──まごうことなき、捕食者の目だ。莉菜や優花とおんなじ。


「ダンナのために、ダンナ以外と行為できるからに決まってんじゃないのさ。アンタ見た目はイマサンくらいだが、律義に口約束を守るなんてオトコらしいじゃないか。割と気に入ったから、ヤッてやるよ」


「おーこーとーわーりーしーまーすー!!!」


 俺は何とか必死に抵抗して、エリナさんからの逆レイプを未遂に終わらせた。

 女性の気持ちが少しだけわかったわ。嫌がる女性は今後絶対襲わないように気をつけよう。


 ──お兄ちゃんは、貞操を守ったぞ。

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