何が本当で、何が嘘?

 拷問、終了。優花は満足したようにあおむけで痙攣している。やたらと頭だけは冷静な俺と逆だ。


 いい思いしておきながら、なんで拷問とか罰とか言ってる理由?

 そんなの、俺がイマイチ気持ちよくないからにきまってるじゃないか。


 だが、なんでそうなのかは思い当たらない。

 少なくとも優花がユルユルのガバガバだからではないし、客観的に見ても優花は美人で。

 こんな美人と致せるのであれば、たいていの男はいきり立つはずなのに。


 …………


 俺が贅沢なだけなのか?

 でも、何やらわけのわからないうちに優花と付き合うことになったせいで、実感がイマイチないせいもあるのかも。


 …………


 そう言えば。

 優花はバツイチなわけだが、なぜそうなったかを俺は知らない。

 ここで離婚理由を聞いてみようか。宏昭が言っていたことも気になるしな。彼氏彼女のカンケイなんだから、そのくらい尋ねてもいいだろ。


「……なあ、なんで優花は、離婚したんだ?」


 俺がそう尋ねると、先ほどまで荒かった優花の息が止まる。

 しばらくしてから、おそるおそる言葉を発する優花に、ちょっとだけ違和感。


「……言っても、引かない? 重いとか思わない?」


「内容によるが……おそらく大丈夫だと思う」


 そんなん聞いてみなければ判断できないので、あいまいにごまかした。

 またまた少し間をおいて、ぽつりと優花がつぶやく。


「……きっと、貴史のことを忘れられなかったんだと、思う……」


 ……はあ?

 そんなに俺のことを好きだったの?

 修学旅行のあの一件だけで?


 だいいち、俺はそんなに顔がいいわけでも、身長が高いわけでもない。

 自分で言っててむなしくなるなんてレベルはとっくに過ぎているくらい、それを自覚しているんだ。


 なのに、なんで……?


 質問で得られたのは、残念ながら愛情より疑念のほうが大きくなる答えだった。



 ―・―・―・―・―・―・―



「……莉菜は?」


「いきなり泣きながら帰ってきて、部屋に閉じこもってるわよ。なにがあったんでしょうね……」


 俺は優花とすることをしたことで、デートが終わりを告げた。

 体力回復しないとならぬ。コンビニで買い物をしてから、自分の家へすたこらさっさ。


 だが、帰宅しておふくろから聞いた答えから推測すると。

 どうやら莉菜は、あの後職場放棄をして家へ閉じこもってしまったようだ。社会人の風上にも置けないやつめ。


 まあ、なんとなく予想はしていたけどね。だからこそのハーゲンダッチという土産だ。

 アイスが溶ける前に何とかしようと、俺は莉菜の部屋の扉をノックする。


「おーい、莉菜?」


『…………』


「アイス買ってきたぞ、食べないか? ハーゲンダッチだぞ? お高いぞ?」


『…………』


 へんじはない。ドアにはカギがかけられている。

 これがアドベンチャーゲームならば手詰まり感半端ないのだが、さすがに兄妹という間柄において、リセットボタンに手を伸ばすわけにはいかない。


「……冷凍庫へ入れておくから、あとで食べてくれ。あと、ミンラマの制服、似合ってたぞ。今日のことは謝罪して、明日はちゃんと出勤しろよ」


『…………』


 俺が何を話しかけても、莉菜は完全沈黙だ。お手上げである。


 ──俺はただ、いい兄貴を演じたいだけなんだけどねえ。



 ―・―・―・―・―・―・―



 次の日曜日。


 莉菜は相変わらず部屋から出てこない。

 兄としてはなんとかしたいものだが、俺は休日にもかかわらず先輩から電話で呼び出され、仕方なく莉菜のことは後回しで出勤することとなった。


「悪いな貴史、せっかくの休みなのに」


「いいえ、先輩からの呼び出しならばどうということはありません。体調不良で迷惑もかけましたしね。で、ちらっと聞きましたが、出張ですか?」


「ああ、ちょっと予定していたはずの人員がリタイアしたらしくてな。俺と貴史で、月曜から出張に行ってくれと」


「月曜って……明日からですか。急ですね。行先はどこです?」


「大阪の高槻市らしい」


「……は?」


 大阪。

 高槻市、って……


 確か、前に優花から『結婚しました』との報告はがきをもらった気がする。

 あの時は、なぜ高校卒業以来疎遠だった俺にそんな報告をしてくるのかという疑問と、優花が結婚してしまったショックがごちゃまぜになって、ろくにはがきを見てなかったが。

 なんとなく、高槻市という住所が記憶に残っている、ように思う。


 ……ひょっとしたら謎が全て解けるかも。

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