なぜか後ろめたい……気もする

 土曜日。

 俺は優花と午前十時に品川駅で待ち合わせをして、コドモショップへと向かった。


 ここでの出来事は特筆すべきことなどない。ただやたらとシャッチョサンと派手な女のカッポーが多かった気がする。

 あとなんで電話ショップに赤ちゃんポストがあるのかが不思議だった。もしも利用する人間を見たらぶん殴りそうで自分が怖い。


 まあいい。無事スマホは修理された。しかし愛フォンではなく、泥の機種である。

 二台目ならともかくだが、好き好きだよな。気にしないことにしよう。


 で、コドモショップを出て、ちょうどお昼くらいの時間帯。


「そろそろ、お昼にする?」


「おう」


「食べたいものはあるのかな?」


「別にこれといってはないよ。近場で済ませたい気もするけど」


 優花と昼飯の相談進行。

 俺は久しぶりに品川へ来たので、勝手がいまいちわからない。ゆえに優花に丸投げをする。


「そっか……じゃあ、久しぶりにパイを食べに行きたいかな」


「パイ? ひょっとして……」


「そ、ミンナラマーズのパイ。最近全然行ってなかったし」


「俺も久しぶりだな……おけ」


 ちなみにミンナラマーズとは、ウェイトレスの制服がエロカワイイ、パイ専門のレストランである。パイを売りにしてるのか、おっパイを売りにしているのかは不明。略して『ミンラマ』だ。

 高校時代は制服を眺めによく来たもんだったが、見物料込みなのかお値段は少々お高い。


 数年ぶりのミンラマ。

 いらっしゃいませー、と声が上がる中、優花は俺の腕にしがみついたまま店内へ入る。


「いらっしゃ………………えっ?」


 しかーし。

 そこには、ニートを脱却したばかりの莉菜が、制服姿でいたのであった。


 ……どこで働くことになったのか、聞かなかったことを後悔したわ。よりによってミンラマか!

 なんで莉菜とはこうも間の悪い偶然が続くんだよ。運命なのかとか思っちゃうじゃねえか。


 それにしても、ここ、容姿でウェイトレスの採用をしていると噂だったが、よく採用されたな、我が妹ながら。


 …………


 ああ、胸で採用されたのか。確かにその部分だけは平均より上かもしれない。


 が、そんなことを推測している場合じゃねえ。


「……どうしたの、貴史?」


 優花はもちろん、俺の腕を放さずに、そう訊いてくるわけで。

 莉菜は身動きもせずに、俺と優花を凝視しているわけで。


 例えるならば、本妻に浮気現場を見つけられた夫みたいに、俺の心は右往左往。

 どうしたもんなのか。


 …………


 って何考えてんだ。俺と莉菜は兄妹、それ以上でもそれ以下でもない。

 確かに童貞を捧げた相手ではあるが、だからと言って恋人同士になれるわけでもないし、将来を誓い合ったわけでもない。ただ、普通の兄妹としてこれからは仲良くしていくという合意を成立させただけだ。


 よし、そういえば莉菜には優花を紹介してなかった。

 いい機会だろう。


「よ、よう、莉菜。まさかここで働いているとは思わなかったが、頑張ってるようだな。ところで、会うのは初めてと思うが、横にいるのが、俺の彼女の優花だ」


「……初めまして。貴史の彼女の、牧原優花です。以後、お見知りおきください」


 優花にも莉菜の存在は説明していなかったが、何かを察したか。

 かなり敵意のこもった挨拶を莉菜に向けてぶつける優花であった。


 莉菜は、青ざめた顔のまましばらく立っていたが、やがて。


「……う、うそつき。お兄ちゃんのうそつき。お兄ちゃんの……バカあああぁぁぁ! うわきものおおおおぉぉぉぉ!」


 莉菜はそう叫ぶと、制服姿のまま外へ駆け出して行く。

 おいおい、仕事ほったらかしてどこへ行くんだ。


「……」

「……」


 予期せぬ一連の流れの最後、店内の視線が一瞬にして俺たちに集まる。

 もうこんなところにいられるか! 俺は家へ帰らせてもらう!



 ―・―・―・―・―・―・―



「……妹さんがいたなんて、初耳だよ」


「……まあ、この前できたばっかりだったしな」


 というわけで、優花に対して言い訳タイム。

 今までの経緯を逐一説明する。もちろん兄妹間の不埒な行為は伏せて。


 それでも、女の勘は恐るべしだ。


「……まさかとは思うけど……貴史、妹さんと変なこと、してないでしょうね?」


 もう冷や汗が止まらないよ。


「あ、あのさ、そんなことするわけないでしょうが。血の繋がった、実の妹だよ?」


「……」


「な、なんかさ、今まで一人っ子だと思っていたところに、兄貴ができたのがすごくうれしかったみたいで、すぐなついてくれはしたけど、それだけだから」


「……」


「だ、だいいち、実の妹に欲情したとか、あまつさえ童貞を妹に奪われたなんて漫画や小説のような話、現実にあるわけないじゃないか。あは、ははは」


「……」


 俺の乾いた笑いを跳ね返す優花の視線が痛い。


「……まあ、いいよ。その代わり、貴史が誰の彼氏なのか、思い出させてあげるから。さ、いこ」


 優花の目の奥が光った……気がした。と同時に、すごい力で腕を引っ張られる俺、男の威厳などすでにない。


「お、おい、腕を引っ張るな。ど、どこに行くつもりだ」


「決まってるでしょ。汗だくでスポーツのできるお城よ。昼だから土曜でも混んでないでしょ?」


「ちょ、まだ、飯食ってねえぞ!」


「ルームサービスもあるからいいじゃない。さ、行こうね」


「やーめーてー!!!!!」


 ずるずるずる。

 結局、俺はなすがままにお城へ引きずり込まれ、優花主導でさんざん襲われた。


 ──コレ、拷問じゃねえの。それとも罰ですか。

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