2日目朝 「奇跡」

暫くして…

板見は知らない場所にいた。


「ん…ここは天国か…」


板見は自分が死んだのだと悟った。

だが、体を動かす度に走る鈍痛。

その痛みで板見は覚醒していき気づく。


「まだ生きてるのか…?」


視界に入ったのはへしゃげたボンネットと萎んだエアバッグ。

だが、幸いなことに運転席はほぼ無事であったのと、シートベルトをしっかり締めていたため、板見はさほど体表に傷を負っていなかった。


(恐らくこの痛みは落下時の衝撃によるものか。)


体の痛みをそう結論付け、板見は状況を整理する。


(砂嵐に巻き込まれて…飛ばされて…)

(で、ここに落下したのか…生きていられたとは…奇跡はだな。ほかの4人は恐らく……)


いくら考えても最悪なケースしか思いつかなかった板見はただ1人その場で泣き崩れた。

だが、直ぐに泣きやみ冷静を保とうとする。


(ここは砂漠のど真ん中だ、日中外にいたら太陽光や熱で体力が持たないだろう)

(ならば日が傾くまで車内に留まろう。それから身の安全を確保できる場所を探そう。)


板見は日が傾くまで車内に残った。

その間これからどうするか検討などした。

時折、仲間のことを想っては泣く。


……


そうこうしているうちに日は傾きあたりは暗くなり始めていた。

板見は車から降り、トランクルームに積んでいた非常用セットと水や食料の入った袋を持ち出す。

そして、袋の中から水の入ったペットボトル2本と少しの食料を車内に残し板見はその場を離れた。


(ここからは自力で砂漠から脱出せねば)


彼はその優秀な頭で考えを巡らせながら身の安全を確保できる場所を、探した。


……


暫くして、更け待ち月が南中する頃板見はとある岩を見つけた。

それはとても大きく、その上空洞になっているところがあり身の安全を確保するにはうってつけの場所であった。

板見は非常用セットの中にあった懐中電灯を手に取りライトを点け内部を照らした。

そこは彼の予想以上に広く外界とは違い適温に保たれてる感じであった。

直ぐに板見はその場に荷物を置き、寝そべった。

それと同時に悲しみが込み上げてきて泣きじゃくった。

彼は身の安全を確保出来たからか、後悔の念から今度は泣き止むことが出来なかった。


「俺が…俺がこんな砂漠に行こうなんて言わなければぁぁ!!」


自分を責めることしか出来なかった。

自分の無力さにつくづく後悔した。

苛立ちから自分の足を殴ったり、頭を何度も打ち付けたりなどした。

しかし、もうあの4人は戻ってこないとおもうと何も考えられなくなっていた。


翌朝


洞穴の片隅で板見は体育座りをしていた状態で寝てしまっていた。

顔を上げ出口の方を見ると既に外は明るくなっていた。


「はぁ……」


板見はため息をひとつつき岩穴を見渡した。

その時彼はひとつの毛玉を見つけた。


「猫…?」


彼は思わずそう言っていた。

板見は立ち上がりその猫らしき毛玉に近づいた。

やはり猫だった。


(こんな砂漠に猫…あ、スナネコか)


彼は少し考えたあと、その結論で納得しまたスナネコを見る。

スナネコは怯えているのか、凄い剣幕で板見のことを睨み、

「シャァァァァァァ…」

と威嚇した。

板見は近づくのを止め元いた場所に戻った。

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