見渡す限りの砂浜は、波浪と潮風で浸食された砂岩が剥き出しになっている。地平線の彼方には砂丘が連なるばかりで、港も人家も見当たらない。昨日の嵐でひと晩じゅう荒波に揉みくちゃにされた海賊船は方角を見失い、太陽が昇る頃にはこの見知らぬ海岸に漂着していた。海底が遠浅のやわらかい砂地だったおかげで船体がバラバラに砕け散るようなことはなかったが、帆は裂け、マストの何本かは支柱がへし折れ、応急修理したばかりの船腹には再び穴が開いていた。
女船長レッドクロスは船を沖へ押し出すためにプロトナイトとプロトメイジを使って浅瀬の上でひとまず回頭させたが、予定ルートを大きく外れた海賊船には、もはや航海を続けるための物資が足りなかった。もっとも、水や食料が完全に尽きてしまったわけではないが、この先また嵐に巻き込まれない保証はないし、まして目的地は戦場である。急いだところで疲れ飢えていてはろくに戦えない。さらに、問題はそれだけではなかった。海図によれば現在地はフェリア王国の領内なのだ。
「フェリア王国って?」
「レオ、聞いたことない?“忘れられし砂漠の都。遠い昔のおとぎ話かと思ってたわ」
「オアシス都市からの
「しかし厄介なことになったな。フェリアは帝国の盟邦のひとつだ。捕らえられれば間違いなく帝国に引き渡されるだろう」
「そうなる前にキャラバンと話つけて逃げりゃあいいさ」
「そんなに上手く行くかな」
「砂漠の真ん中でオアシスを探し回るより、海岸沿いに進んで港を目指したらどうです?」
「いや、港だとあたしの顔は知れ渡ってるだろうからねぇ……。それに、これを見な」
地図が古くて申し訳ないねと断りを入れてから、レッドクロスは海図の上にもう一枚の黴臭い羊皮紙を広げた。通常の航海では港と主要都市の位置さえ把握していればいいので、内陸についての情報は更新が滞りがちなのだ。
「正しい方角は夜空を見なきゃ分からないが、現在地がおそらくこのへんのどこかだから、こっちの都との間の、だいたいこの辺りまで進めばオアシス群にぶち当たるはずだ。そんで現在地から一番近い港はたぶんここ」
「これは……ちょっと現実的な距離じゃないですね」
「だろう?ま、オアシス探しがダメだったときのために、港へ向かうことも一応は考えとこう」
視界を遮るものがなにもない砂漠で目立つのは承知の上、生身で彷徨うよりはずっと効率がいいという理由で、レッドクロスはプロトナイトに、エリシュはプロトメイジにそれぞれ分乗してオアシス都市を探すことになった。二体の魔鉱兵には水と食料をありったけ詰め込み、オアシスを視認したら機体を砂に埋めて隠す。補給を優先すれば王国軍の奇襲作戦に間に合わないことは覚悟していたが、この旅がそれ以上の災いと新たな出会いに繋がることを一行は知る由もなかった。
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