2ー101★どこから?

フィリアは何気ない碧玉遊びをしていると…


【おい】

『えっ?』


彼女はどこからか声が聞こえた気がしたので周囲を見渡した。

今いるのはノルドの小屋で自分用にあてがわれた一室で窓もない。

もしかして顔が自分から接触してきたのか?

一瞬そうも思ったが、周囲に変化を感じないことから自分の間違いを悟る。

それに彼女の中で聞こえたのは女性の声だった気がしたからだ。

一体なんだったのか分からないまま、ぐるっと一周見渡すが、やはり気のせいだと思い彼女は再び石遊びを始めた。


【だから「おい」と言っているであろうが人間】


再びどこからか声が聞こえた彼女。

二回目は不意に声を出したりはしなかった。

声を出さずに、先ずは周囲の様子を探るように耳に意識を集中させる。

だが物音がした感じはない。


不気味に静まり返る彼女の部屋だが声はした。

絶対に聞き間違いなどではない。

と言うか物音一つしない現状において聞き間違いなど起きるわけがない。

そう思った彼女は…


『誰でしょうか?』


先程のようにビックリしながらではなく、落ち着き周囲に注意を払いながら彼女は静かに声をあげた。


すると…


【ここだ】


また聞こえるのだが、声の発生源がいまいちパッとしない。


『えーっと…申し訳ありません。ここだと分からないのですが…』

【分からないだと?全く…困ったヤツじゃ。妾は今、お主が遊んでいる碧玉じゃ】

『えぇーーーーー!!!これぇ~?石ですか??』


あくまで冷静に対応しようとは思っていたのだが…

自らの質問に思わぬ回答が来た彼女。

気がつくと思いっきり大きな声を出していた。


コンコン!


『フィリアさん、フィリアさん!どうしたんですか?』


自分の部屋の扉を誰かが叩いている。

そう思った彼女だったが…


原因は分かっていた。

自分が不意に大きな声を出してしまったばかりに、近くにいるナカノが様子を見に来たのであろうと言うことがだ。


とは言っても今の状態…


これを彼になんと話していいものかと考えていると…


【おい、何をしておる!】

『えっ?』


不意に聞こえる自称碧玉の声に彼女はまたもや不意の叫び声をあげてしまった。


直後…


ガンガン!


『大丈夫ですか?大丈夫ですか!どうしましたか?フィリアさーん!』


ナカノは先程よりも明らかに強い力で扉を叩き、大きな声で呼び掛けてきた。

何かあったのかと心配してくれての行動だとは思うのだが…

事態を全く飲み込めていない彼女は…


『へっ?』


と言う突拍子もない声が出てしまう。


『あー、聞こえた。フィリアさん、何かあったんですか?』


ナカノは恐らく彼女が部屋にいるのが分かったことで、少し落ち着いたのだろう。

扉を叩くのをやめて、いくぶんかではあるが声の方も聞きやすくなっているような気がした。


『あー、ナカノ様でしょうか』


彼の声が聞きやすくなったことで、彼女の方も少し落ち着いたのだろう。

扉越しではあるが彼女は、とりあえず応対してみることにした。


『はい、そうです。今さっき何か叫ばれたような感じでしたが何かありましたか?』

『えーっと…叫ぶと言いますか…その…』

『えっ?叫んだんじゃないのですか?』


この時、彼女は自身の頭の中で「碧玉が突然喋りだしたんです」と言うべきなのか考えたのだが…


『えーっと…よく分からなくて…』


説明が上手にできる自信がない。

一歩間違えると変人扱いされるかもしれない。

そうでなくとも今、不審に思われているかもしれないのに…

そう思った彼女は、とりあえずナカノに誤魔化そうと思いこう答えてしまった。


『え?よく分からない?それ寝てたってことですか?』

『えっ…えぇ…。まぁ…』

『あー…、そういうことならいんです。異常とかはないんですね?』

『はい、ありません』

『分かりました』


彼の言葉の後、扉越しに足の音が聞こえたので、恐らくは彼が部屋の前からいなくなったのだろう。

もしかしたら大きい寝言なのだなぁ、などと思われたのかもしれないが、後に変人扱いされるよりは、まだマシだろうと自分を慰める。

とりあえずナカノをやり過ごした彼女は、ほっと胸を撫で下ろしたのだが…


それも束の間でしかない。

直ぐに取りかからなければいけないことが待っているからだ。


彼女は胸を撫で下ろして心落ち着かせた後、自身の右腕に口を近づけて優しく話しかける。


『先程、話しかけてきたのは貴女でしょうか?』

【ようやくか?お主、待たせ過ぎじゃぞ!】


彼女は再び叫びそうになるが、寸前のところで何とか思い止まる。

咄嗟に自分の口を両手で覆い必死に声が出そうになるのを我慢していた。


そして我慢しながら何度も辺りを見回す。

壁だけではなく、机の影やベッドの下など部屋の隅々に至るまで、そうして短時間ながら納得いくまで調べて彼女は理解した。


今、自分の目の前にいるものが喋る宝石だということを。


これまで様々な宝石を見てきたと思っていた彼女でも初めてお目にかかるものだ。


おとぎ話や伝承の類いでは、何度か聞いたことはあった。

だがそれは、あくまでも想像上の世界にすぎない。


どこの誰からも、そんなことが現実にあると聞いたことはなかった。

強いて言えば、宝石に擬態したモンスターと言うのは聞いたことはあったが、それであれば今度は人との意思疏通と言うのが叶わないはず。


それが今、自分の目の前にしっかり現実として起きている。

彼女はただただ驚くばかりだった。

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