2ー100★碧玉と彼女

多少、ゴタゴタした感じはあったがフィリアは今、昨夜に顔から指示を受けた通りナカノが壊そうとしていた箱を護り自分の部屋に運んできていた。


彼女は今まで生きていて、駆け引きなどといったことを殆どしたことがない。

それだけにナカノから箱についての情報などを問われたときに、彼女は明らかに動揺していた素振りを見せていた。

なので、彼も最初は彼女の意見に耳を傾けようとはしなかったのだが…


そこは彼女の最終手段…


いや、彼女と言うよりも女の最終手段といった方が良いのかもしれない。


泣き落としと言う方法を使い、彼女は見事?ナカノの気力を剥ぎ取り箱を自分の手元に持ち込むことに成功していた。


彼に対して多少、後ろめたさがあるとは言え、顔からの指示を思い出すと仕方がない事実と割りきり彼女は今、部屋の中にいる。


『んー…、どうしましょうか…』


彼女は自分の右腕につけられている数珠状の緑色の碧玉ジャスパーを何気なく触りながら考え込んでいた。


顔からの指示では、自分が一人になったときに自分を呼んでくれれば次の指示を出すと言うようなことを言っていたのだが…

今の状況、一人になったとは言え部屋の壁を跨いだところには、ナカノがいるのは明らかだった。

恐らく彼のことだ、昨日のことで多少自分に対して不信感を持っているかもしれない。

そんな状況で彼女は、本当に次の行動に移ってもいいのか確信を持てずにいた。


『でも、どこなら大丈夫なんでしょうか…』


周囲はモンスターに囲まれていて他に移動することもままならない状況の中で行けるとしたら小屋の中か外のどちらかしかない。

そういった状況の中で、一体どこで顔を呼び出せばいいのか彼女は悩んでいた。


『やっぱり外なのでしょうか…』


中で呼ぶのか外で呼ぶのか、彼が中にいるときに自分が外で呼び出せば彼に知られることはないかもしれないが、ただ何かの用事などで彼が不意に外に出てくることも考えられる。

そういった場合、可能性的に彼女は顔とのやり取りをモロに見られてしまうことにもなりかねない。

まだ、どういった話し合いになるのか分からないが、内容によっては彼女とナカノの間が最悪の展開となっていくことも考えられる。


『んー…中と言うのも…』


この小屋、壁が木で出来ているだけあり音などは簡単に通してしまう。

やり取りの様子などは部屋に入ってくるまでは分からないので大丈夫だとしても、壁などに耳をたてれば簡単に聞くことができるのでどのみち不安要素があるには変わりがなかった。


結局、今動きがとれない現状で自分が完璧に一人になれる状況などは無い。

恐らくもっとも可能性が高いのは、彼が寝ている時。

そう結論付けてしまった彼女は、ため息をつきながら緑色の碧玉ジャスパーをおもちゃ代わりに触ったり眺めたりをひたすら繰り返している。


ノルドはこれが自分の宿り子の治療に効果的だと言っていた。

緑色の碧玉ジャスパーをアクセサリー代わりに身に付けることで自分の悪い要素が緑色の碧玉ジャスパーの方に吸収されていくらしい。

そして吸収されれば、されるほどに石は純粋な緑ではなく、徐々に赤を宿していく。

彼からの言葉を思い出しながら、それを見つめる彼女の表情は実に嬉しそうなものだった。


最初は見えるか見えないかの赤い糸。

それが今では普通に肉眼で存在を確認できるほどには太くなっている。

太くとは言ってもたかが知れてはいるが、それでも彼女には嬉しいのだろう。

何度も何度も触っては確認して、触っては確認してと言うようなことを繰り返していた。


彼女の方としても今は休むべきだと言うのは分かっている。

だが、今は離ればなれになっている者達のことが気になるのも事実。

そして、それが頭の中を隅の方でも思い浮かぶ度に眠気などもどこかに吹き飛んでいた。


だからと言って今の現状を考えると顔を呼び出すのも気が進まない。


そんな彼女は、いつしか緑色の碧玉ジャスパーを眺め、触り時間を潰していたのだが…


『あれ…?今、これ…気のせいですか…?』


一瞬、石が光ったような気がした。

もしかしたら、気のせいだろうか?

いや、気のせいと言うには明らかに強い光だった。


彼女はそう思い今度は石を触らずに注意深く見つめる。

今、彼女がつけているのは違うが、物によっては宝石としても扱われることがある碧玉。

それゆえに見える角度によっては、周囲の光を綺麗に反射することもあるのかなと思いながら目を凝らしてはいるが…


彼女がつけているそれは今、一切の手入れなどはされていない。

さらに宝石として見た場合、原石とも扱われないはず。

アクセサリー代わりにつけてはいるが、それはあくまでも治療のためである。


つい幾ばくか前までは王女として数々の宝石を見てきた彼女。

その目で確認してみたが、どうあっても彼女が先程感じたような光を放てるような石には思えなかった。


『んー…でも…気のせいと言うには…』


自分が見た限り宝石としては三流以下と言う評価は誰もが一緒のはず。

なのに何となく気になってしまう。

明確な考えはもちろんない。

だけど何となく直感的なものが気のせいではないといっているようだった。


何度も何度も首をかしげながら、先程の光のことを彼女は思い出す。

時間がたつのも忘れて考える。


そして、いつしか彼女の周囲にはこの光同様…

いや、この光以上に奇妙なことが起こり始めた。

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