2ー98★怪しいのは…

気がつくと夜が明けていた。


フィリアが今にも気を失いそうな表情で、声もなく結界の外を見ている。

俺の方も大体の事情は昨日のうちに察しているとは言え、夜明けになり改めてモンスターの群れを見直すとやはり恐怖の感情はあるのだが…


今はもう結界を越えてこないのは分かっているので、正直それほど心配はしていない。


今心配しているのは、昨日から姿が見えないみんなのことだ。

ノルドとエルメダ、アンテロの三人は小屋の方に戻ってきてはいないし、フェンも昨日いなくなったきりだった。


結界の周囲は相変わらず、モンスターが群がっていてとてもじゃないが相手にできるような状態ではない。

外に出ることができないなら、中で出来ることをということでフェンの捜索が一区切りついた後、俺はフィリアとフェンのことをひたすら話し合っていたのだが、途中で小屋の中にうっすらと明かりが射してきたのを見て俺は彼女に周囲の状況を説明した上で、結界の周辺へと案内をしたと言うわけだ。


『これが昨日の夜からというわけでしょうか…?』

『そうですね。昨日俺が帰ってきてフェンに呼ばれ見に行ったときからです』

『あの時からずっとなんですか?』

『そうですね。なので、本当に申し訳がないのですが、俺とフィリアさんの二人で現状を打開する手だてを何とか考えなければいけないのですが…』

『そうですね、ワタクシも精一杯頑張ります!』


そう言ってやる気にみなぎっているような彼女なのだが…

俺の中では昨日から彼女に対して、どうにも腑に落ちないことが多くある。


昨日からと言っても正確には、俺が小屋の裏側に周り怪しげな物体を壊そうとした辺りからだ。


俺は昨日フェンの捜索を終えて手がかりがなくなった後、彼女には最初にあの悲鳴の理由を訪ねてみたのだが…

その時の彼女の理由と言うのが実にあやふやなものだった。

納得いかなくて何度か詳しく聞いてみたのだが…

聞くたびに少なくとも一ヶ所は、前回と違う箇所が見られる状態なのだ。

そして、その度に説明を打ちきり詳しい内容を聞こうとすると、やはり分からないなどと言うことを言い出したりするので、もはや怪しさしか感じられない。


他にもフェンのことを聞くと、妙に大丈夫だとか言い出したりする。

確かに仲間として彼の無事を願う気持ちは俺にもあるのだが、全く状況が分からない状態で、俺も彼女の言うように大丈夫だと言いきることができるのかと言われると、まず無理だと思う。


それに彼女には最初にあった時の印象から、どうにも感情を隠すことと言うのが苦手なのでは?

と言うような印象を俺は持っている。

なので、彼女が何かを隠していると言うのは、俺の中ではかなり疑いをかけていた。


とは言っても悪い人だと言う印象もない。

恐らくフェンや俺たちのことを仲間として見ていると言うのも嘘ではないと思えるので、俺はあまり強く聞けずにいた。


(んー…

何から切り出せばいいのか…)


『そう言えばフィリアさん、あれはどうしますか?』

『あれとは…?』

『あー…。昨日、小屋の裏側にあった丸い木箱みたいなやつです。あの一ヶ所だけ穴空いてて光が出てるやつ』

『あー、あれのことですね。あれは、ワタクシに任せていただけませんか?』

『えっ?任せる?何でですか?』

『あー…、あのー…あれについては、ちょっと…その…』

『ちょっと、その?って、あれが何のための物かフィリアさん分かるんですか?』

『いいえ、分かりませんけど…』


(分からないなら任せてもしょうがないだろ…)


『では、何故任せろと言うのでしょうか?』

『えーっと…何かは分かりませんが、その…何とかなるかなと…』

『何とかなる?それは、あれを調べる方法があると言うことですか?』

『えっ、ええ…、まぁ…』


彼女の言葉を聞いて、俺はつい興奮してしまった。

もしかしたら、フェンのことは何とかなるのか?

反射的にそう思ってしまい、彼女の両肩を強く握り混んでしまう。


『あっ…痛い…』


俺がめい一杯力を込めたことにより、彼女の方は顔を歪めた。


『あっ…、すません。つい…力が…』

『いいえ、大丈夫です』

『そうですか…それならよかったです。それで、そのフィリアさんの言う調べる方法と言うのはどう言ったことですか?』

『えーっと、調べる方法というよりもやってみたいことと言うのがありまして…なのでワタクシにどうか預けていただければと思うのですが…』

『やってみたいこと…ですか?具体的には…?』

『えーっと…、それは…、ちょっと言えないと言いますか…』


(でたよ…この状況で隠し事かよ…)


『言えないって、それノルドとかに俺に言うなとか言われてたとかそう言うことですか?』

『いいえ、ノルド様とかには全く言われてないですけど…あの…その…』

『えーっと…誰にも言われていないと言うのであれば、こういった状況なので話してもらいたいと思うのですが…』

『えーっと、そうなんですが…その…話せないと言いますか…』

『話せない?』

『え?何をですか?』

『いや、何をって言うか…話せないって最初に言ったのはフィリアさんからですよね?』

『えっ?ワタクシが言いましたか?ホンとですか?』


彼女は必死になって誤魔化そうとするのだが、俺が彼女に対して今の状況で話せないと言うことはないと思う。

あるとすれば、俺がこの世界の生まれではないと言うことくらいだが、それが今のこの状況で必要になるかと言われると可能性的にはかなり低いだろう。


だから「話せない」と言い出したのは彼女なのだが…


「話せない」と言うことは、誰かに約束をしたと言うことなのだろうが、この状況で話した可能性がある人物と言うのは…

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