2ー75★説明の難しさ

『あのー、グリエルモさん…。突然ですが聞いておきたいことがあるんですけどいいですか?』

『私にですか?はい、構いません』


俺の突然の質問にグリエルモが驚いて聞き返す。

彼の顔は【?】で埋め尽くされている。


『えーっとですね、聞きにくいのですが…確かグリエルモさんって元王国の兵士か何かなんですよね?』

『正式な兵士ではありません。王国軍に志願という形で関わったのはキマイラ討伐と猪の討伐の時の二回だけですが…』


俺の質問に対して素直に答えるが、依然として彼の顔から【?】は消えずに残っていた。


『なるほど、と言うかその王国軍に志願というのは自分でなろうと思うだけじゃなく、ある程度の実力がないとダメなんですよね?』

『キマイラ討伐の際には厳選な試験は行われました。ですが、その後の猪討伐の際には、色々な諸事情で国弱体化が目立つ時期だったために試験というのは名ばかりほどのモノでした』


このグリエルモの言葉を聞いて俺はかなりの安堵感を覚えた。

と言うのも、確かフィリアの説明の中ではキマイラというのは、かなり強いモンスターと言っていたしノルドも神聖獣と言っていたくらいなので弱いわけがない。


そんな強いモンスターを倒すための討伐隊の試験だけに、簡単なわけがないだろう。

具体的な難易度は不明だが、俺程度の実力では恐らく受からない自信がある!


と言うことは、グリエルモは間違いなく俺よりは戦力面で上なはずだ!

次にどの程度上かという目安的なものがあれば良いのだが…


『あのー、ちなみにグリエルモさんってどのくらい強いんですか?』


この質問をした直後、俺を除く二人が不思議そうに顔を近づけてきたように思えた。

そして、その瞬間、俺は悟ってしまう。

今の質問が、自分の中であまりにもアホであることに!


『ナカノ様、一体どうしたんですか?なんか誰かと戦うんですか?私の方はそんな話聞いてないのですけど…』

『えっ…、いや。別にそういうことじゃなくてな…』

『でも、戦うつもりじゃなかったら今の質問内容っておかしくないですか?明らかに関係ないことしている暇なんてないんですよ』

『いや、そういうことじゃなくて…』

『「そういうことじゃなくて…」ですか?その言葉の「そう」は、戦うつもりじゃないと明らかに関係ないのどちらのことを指しているんですか?』


トーレに関しては毎回、ぐいぐい質問してくるとは感じてはいたのだが、今回は今まで以上にそう感じてしまう。


と言うよりも…


もしかすると、俺が単純に語るに落ちるという状況に陥っていることなのかもしれないのだが…


そうは言ってもパッと考えただけで、今の状況が打開できる方法というのが簡単に思い付くわけもない。

二対一で明らかにアウェー感100%と言った感じがする。


『んー、どういったら良いのか正確にはわからないんだけど…、とりあえずは俺じゃない人の意見なんだよね』

『それは私も会ったこと無い人と言うことですか?』

『うん、トーレも会ったことが無い人って言うか、あのトラボンさんと話していたときに出てきた人覚えてる?あの人の意見なんだよね』


もう隠しきれないと判断した俺は、正直話すことにした。

俺が話すと彼女は無言になり目線は斜め上で何やら考え出す。

彼女の表情と仕草を見て先程の俺もこんな感じだったのかなと思うと若干、笑いが込み上げてきた。

とは言え、彼女はノルドのことを見たことがないしトラボンとの話で出てきたと言っても一度きりだけだ。

そんな面識もないもののことだと言われて返事に困るというのは実にしょうがないと感じる。


『ナカノ殿、その方は一体どういう方なのでしょうか?』

『あー、えーっと…グリエルモさんの方としては、フィリアさんを預けている人と言うことです。もちろん俺の仲間の三人もそこに一緒にいますよ』

『なるほど、あの方とご自身のお仲間を預けてということは、かなり信頼できる方ということなのでしょう。それでその方はどれ程の実力をお持ちなのでしょうか?』


トーレの次はグリエルモが質問をして来たのだが、予想通り全くもって回答に困る質問と言うやつを彼は投げ掛けてきた。

恐らくなのだが、この時にグリエルモが言っている実力と言うのは単純な強さだけではなく、危機を回避する能力などのことも指しているのだろう。


そういった彼の質問の意図を俺は普通に理解しているのだが…

どうにもうまく説明できそうな回答と言うものを持ち合わせてはいなかった。


と言うのも俺はノルドのことを実はよく分かっていない。

いや、実はも何もない。

会ったのも今回で二回目。

知っていることの方が少ない程度の仲でしかないからだ。


だから彼がそう言う能力を持っているのか、もしくは度重なる危険を切り抜けた素晴らしい経験に基づくものなのか、はたまた根拠もないでたらめなのか…

俺の方としては別れ際に彼が言ってきた言葉の本当の意味での意図が分からなかった。

とは言っても、でたらめと言うのは考えないようにしたい。


『んー…、正確な実力とかは定かではないんですけど…と言いますか職業とかも実は知らないんですよね、長い間、この山に一人で住んでいるから、それなりにはあるとは思うのですが…うーん』


何か見るからに怪しい人を説明するような感じになってしまったのだが、とは言っても仕方がない。

これが俺が今、ノルドについて知っていることの全てなのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る