2ー74★無理はしたくない

『ナカノ殿、どうしましたか?』


トーレの問いに対して明らかに黙ってしまった俺をみて、グリエルモが不思議そうに聞いてきた。


『いや…。なるべくであれば、そう言ったことは避けたいかなと思いまして…』


二人に会う前、俺はノルドやフェンと言ったメンバーを中心にある程度は慎重に話し合いをして来たつもりだ。

その際にフェンは無理はするなと言っていた気がする。


あの時の話の内容は、確か俺がここから都市へ向かう際の出来事、特に精神量のコントロールについてだとは思うのだが…


恐らく話の最終的な内容を考えると、危険なことを避けなさいと言うような内容に行き着くはずだ。


今の段階では、目撃したのは俺とグリエルモ。

そして、光の詳細は不明。

こういった状態なので、危険かどうかは分からない。


分からないのだが…


俺の主観的な感情を言わせてもらえるのであれば…


得てして危険を知った直後というのは逃げ道など無いのが常に思える。


それに、今になって気になるのが、ここに来る際に交わしたノルドの言葉。


彼は俺に自分の心配が無駄な努力であれば良いと言うようなことを言っていた気がする。

何種類もの武器や防具を俺に渡しながらだ。

それというのは…


すなわち彼の中では俺には少なからず戦う可能性と言うのがあると言うことを示唆しているのではないだろうか。

彼の言う心配と言うのがどの程度ものなのかは具体的には聞いていない。


そう!


聞いていないからこそ…


今となっては、その辺のツメの甘さと言うのが非常に悔やまれる状況に陥っていた。


俺は気づくと自分の右手を自らの後頭部に当てながらしきりに何度も何度もかいている。

別に痒みを感じているわけではない。

何となく落ち着かないから、条件反射的にやっているだけなのだ。


『あっ…、痛っ…。なっ…何?』


無言で、ひたすらにそんな動作を繰り返していると突然、自分の背後から痛みを感じた。

痛みを感じた箇所…

もう少し具体的に言うと、首の少し上の辺り。

俺は自分に何事が起きたのかと思い後ろを振り向いてみると…


そこには


ニヤニヤしながら俺の方を見ているトーレの姿があった。


『あー、お気づきでしたでしょうか?』


俺が後ろを向くと悪びれもないような表情で彼女は、そう言ってきた。


『はぁー、お前、何言ってんだよ!そりゃー、気づくに決まってんだろ!』

『言えねぇ~、三人で会話中だと言うにも関わらず、いきなり考え込んだかと思うと…いくら呼んでも返事しなくなって…それならどこまでやれば呼び戻せるのか試しているうちにですねぇ~。ついつい、面白くなっちゃいましたぁ~。』

『えっ…いくら呼んでもって…俺そんなに長い時間無言だった?』


俺は自分の挙動が不安になり、近くにいたグリエルモの方に視線を向けると彼は無言で頷いている。

自分では全く意識などしていなかったのだが…

どうやら俺はそこそこの時間、考え込んでいたらしい。

そして更に、そんな指摘されるほどの時間考え込んでいながら、具体的な結果と言うのはまだ出ていないというおまけまでついている自分に俺は若干恥ずかしいやら、うしろめたいやら何とも言えないような感情になっていた。


『いやー…そうなんだ…何だか申し訳ない……』

『いえ、別に良いんですけどね。それでナカノ様は一体何を考えていたのですか?』

『えっ!いやー…、そんな大したことではないんだけどね…』

『大したことがないなら、そんなに真剣に考え込まないと思いますよ』

『そうです、ナカノ殿。それに、もしも大したことがないというのであれば、逆に話していただいた方が我々としても安心できるのではないでしょうか!』


当然と言えば当然のことになるのかもしれないが、トーレとグリエルモの二人も俺が考えていた理由というのが気になるのだろう。


確かにそれは俺も最もだと思う。


そこで俺はここで一つ考えを改めてみることにして見た。

もし俺が、明日以降都市に向かうと仮定する。

そうすると不足の事態に陥った場合は俺の側にグリエルモがいるのはほぼ間違いないだろう。

もしかするとトーレもいる可能性もあるが、夕方以降、彼女は引き返すことになっているのでいるのかいないのかは半々のような感じもする。


続いて俺が正直に自分の不安点などを二人に話した場合。

その場合は、今の状況からすると三人の中で誰かが欠けた上で行動するというのは、ほぼ無いのではないか?


と言う考えに至ったのである。


そして、忘れていたのだがグリエルモという存在。


確かフィリアの話では彼は元王国の兵士か何かだったはずだ。

それも神聖獣キマイラの討伐隊に選ばれたとか言っていた気がする…


と言った経歴を持つ彼だが、実力は低いだろうか?


そんなわけがないだろう!

確か彼は神聖獣キマイラの討伐の際に唯一人の生き残りだったはずだ。


であれば、彼の実力と言うのはかなりのものなのではないか?


もしかすると…


そんな不安要素などあっという間に解決できる実力なのかもしれない。


それであれば…

無理に隠して都市を目指すよりも、今三人で行動し不安要素と言うのを消し去った方がよいのではないか?


フェンは無理な行動をするなと言った…


もしかすると俺が一人で行動すると言うことが、彼の言った無理と言うことになるのでは…


俺は考えているうちに、そんな結論に至ってしまった。

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