2ー34★飢餓
(もしかしてバビロンの事件って…これか?)
俺は、この言葉が喉元まででかかったのだが、なんとか押し止めた。
恐らく、状況が掴めないうちに国から逃げることになった彼女。
その後、連絡を取っていた人間なんて一握りなのだろう。
だとすると人々の噂にまで耳を傾ける暇や余裕なんてないはず。
変に聞いてしまうと心に傷をおったりすることも考えられる…
それなら他のみんなと合流した時に彼らから聞けばいいだけと考えたからだ。
『なるほど。それで、そのグリエルモさんという方は何処にいるんですか?』
俺はフィリアと名乗る老婆の話が終わると、とりあえず訪ねた。
『ええっと…それは、どういう意味でしょう…』
『いや、死にたくないから二人で逃げてきたと思ったんですけど…今、この場には一人ですよね?』
『あーっ…、はい。二人でこの場まで来ましたが…それは、お力になってくれるということなのでしょうか?』
『お力になって…と言うことは…グリエルモさんも、って事ですよね?今、困っているということですか?じゃなかったら、静かに暮らしたいとか言いますよね?』
一瞬、彼女が下を向いた。
どうやら嘘とは言わないまでも何かあるのは確定的に感じる。
喋るごとに力が抜けていく感じといい…
育ちが良いせいなのか?
なんか駆け引きとかは無縁の世界で生きてきたのかなと思ってしまった。
『すいません…』
『いえっ…別に謝罪して欲しいとか言うことはありませんよ。ただ、お力とは言ってもですねぇ~…。俺個人の方に何か特別な能力があるわけでもないので、力になれるかどうかも分かりません。それに一口に力になるとはいっても、俺一人で決定するわけにもいかないですから…』
『そうですよね…』
正直、俺の中では今回の依頼内容は洞窟の調査だと思っている。
今回、彼女から聞いた話はアンバーが離れ際に渡してくれた魔音集器の方にしっかりと記録されているはずだ。
湖で見かけたと言うもう一人もフェンの方から押さえられるはず。
なので後は都市に戻り彼女の事を話た上で記録を提出すれば依頼は完了だと思っている。
だから彼女の周囲の事については深く関わるつもりがなかった。
確かに話を聞いた限りでは、彼女ら二人の事情というのは同情すべきものだろう。
自分が当事者だったらと思うと力になってあげたいとは思う。
だが
グリエルモという人の事もなんか厄介な臭いがする。
それに俺と最初に会ったとき、彼女は俺をバビロンの人と勘違いしていた。
と言うことは彼女は国で行方不明かお尋ね者として手配されている可能性が高い。
そんな状態で下手に手を貸したら、場合によっては国を相手にという可能性も…
考えれば考えるほど貧乏くじしか思い付かない…
なので俺は、みんなと相談した上で食料など物品の援助をして切り上げるつもりでいた。
先程のアンバーやローレンの反応から察するに、誰からも反対意見はでないのではないかと思う。
『ええっ、ただ今出来る範囲というか…持ってる分の食料とか、物資についてくらいだったら協力は出来るかなと…』
『食料!?』
彼女はそう言うと両手で自らの左腹部を押さえ苦しそうに踞り出す。
今聞いた話の中に彼女の行動を説明できるものがない。
流石に心配になった俺は彼女の方へ近寄ろうとすると…
どこからともなく
ギュュゥゥゥ~…
と言う何とも言えない音が鳴り響いた。
出所が分からない音だけに俺は彼女の様子より音の方が不安になり何度も周囲を見渡す。
しかし音の所在が掴めない。
気のせいではないはずと自分の心を持ち直すと再び何処からか音がした。
二回目の音は心づもりが若干出来ていたこともあり、察しはついたのだが…
俺は何も言えなかった。
と言うのも…
鳴ったのは恐らく…
フィリアのお腹の音だと思ったからだ…
二回目に俺が音を聞いたとき、一回目とは違い落ち着いていた。
その状況を彼女は目の前で見ていたこともあり気づいたのだろう。
俺が彼女の音に気づいたと言う事実を…
見方によっては彼女は俺に謝ろうとしているように見える。
なんとか体を起こして話をしようとしていた。
『あー、無理はしないでください。体調が悪いんですよね。良いですよ!そのままの体勢で別に気にしないですから』
『すいません。別に体調が悪いわけではないですから…』
そう言葉を返す彼女の顔は歯を強く食い縛っているし、音の方も何度か鳴っている。
誰から見ても体調が悪いのは明らかだと思う。
『大丈夫ですから、とりあえず楽な体勢になりましょう。何かにあたったんですかね…』
『あっ…、本当に大丈夫です。あたったと言うか…恐らく、その逆かと…』
(その逆??
えっ?
どういう意味?
あたったの逆?
外れたでは絶対にないだろうし…
もしかして…
食べていないと言うことなのか??)
二人で逃げてきたと言ったことから男の方もどこかにいるのだろう。
俺と彼女が話をしてある程度の時間がたっているが、周囲には相変わらず誰もいない。
もしも…
もしもだ…
男の方に怪我など重要な問題が生じたとしたら、彼女一人でなんとか出来るのだろうか?
多分、話の内容からすると今の彼女は魔法も不思議な力も使えないはず。
そう考えると、答えはノーと言うことなのだろう!
でも協力者がいるはず…
現に俺たちが彼女を発見したのも誰かと遭遇しているところを見つけたのだから…
(あれは…あの時、エイジが見たという男は協力者ではなかったのか?
いやでも、じゃないとしたらなんなんだ?)
『フィリアさん!』
『はい。なんでしょうか』
『えーっと、人数が少なくても協力してくれる方がいるんですよね?』
『はい、います』
『みなさん、どのくらいの頻度とかでサポートしてくれるんですか?』
『この辺りで来てくれる方はお一方のみでして…その…』
『あっ…、ごめんなさい。一人なら一人でも構いません。で、その方はどんな感じでサポートしてくれるんですか?』
『はい、ご自身の仕事の合間とかに来てくれる程度です…』
多分、エイジが見つけたというロスロー商会の男。
この男が、フィリアの言う来てくれるお一方なのだろう。
で、仕事の合間に来てくれると言うことは、周囲に気づかれないように行動している可能性が大きい。
これは、フェンの方も男がここに繋がっているという事実を知らなかったようなので、かなり確実性が高いことだと思う。
そんな男がサポートをするとして、満足のいくサポートなんて出来るだろうか?
確かエイジは袋一つ渡してとか言っていた気がする…
(一人の男が誰にも見つからずに持ってくる程度の袋一つ。それも毎日ではない。その程度のサポートで、男と女が何日も満足出来るようなサポートなどできるのか…?)
絶対に無理だろう…
だとすると…
いつから食べてないんだ?
宿り子とやらの影響があれば、食べなくても死にはしないのかもしれない…
でも彼女の表情は明らかに優れない。
と言うよりも…
苦しそうだ…
話からするにモンスター化しているらしいが苦しいのは変わらないのだろう。
俺はこの時、自分の心が揺らいでいくのをハッキリと感じていた。
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