2ー32★王女の回想⑱気づかぬふり
目の前の傷だらけの大鷲は、王女が状況を把握しない内に一人の男に姿を変えた。
彼女は自らの記憶を探ってみる。
その男の名は確か…
グリエルモ・ティフォンと言っただろうか。
キマイラ討伐、唯一の生還者として一度だけ会ったことがある。
後は…
猪との戦闘の時にいただろうか…
いたような気もするが、ハッキリとした記憶がない…
と言うか…
鷲から変化したように見えたので、もしかしたら…
亜人なのか?
亜人ということは…
バビロン直属の兵士ではなく義勇兵か何かなのか?
「フィリア王女、手荒な真似をして申し訳ございません。しかし他に方法が思い付かなかったものでして…」
グリエルモは満身創痍の状態に見える。
だが態度には全く表さず片ひざをつき冷静な様子だ。
現状を把握しようとして考えをめぐらせ過ぎて言葉が出ない彼女とは対照的に見えた。
「いえ…、と言いますか…確かお名前はグリエルモ・ティフォンと言いましたでしょうか?今回のこの件は、どういった意味があるのでしょうか?」
「はい、それにつきましてはこちらをご覧ください」
グリエルモは彼女にそう言うと、黄色いハンカチを差し出す。
あれ…
これは…
王女が好きな色は青。
普段来ているドレスも青系のものが多い。
そんな王女が外出する時、侍女は必ずと言っていいほど黄色いハンカチを渡しに来ていた。
もう、懐かしい思い出だなと思いながらグリエルモからハンカチを受けとると中には羊皮紙が…
開いて中を確認すると、そこには文字が書いてある。
最初はただひたすらに謝罪の言葉が綴られている。
そして途中何ヵ所かにじみのようなものが見られた。
それに文字が震えているような感じがしたりと全体的に非常に読みにくい。
だが、震えているとはいえ見覚えのある文字。
彼女はそれから目を離す事ができなかった。
内容によると、実は捕らえられた翌日には王女は異端審問にかけられるはずだった。
だが王個人としては、彼女に
とは言っても周りからの意見もある。
どうしようかと考えた末に、侍女から提案があったということらしい。
多くはないが他にも協力者はいるらしいので
「なるほど。内容は分かりました。分かりましたが…それでこれからどうしろと?」
羊皮紙に書かれたメッセージに一通り目を通した彼女が落ち着いた感じで言ってきた。
恐らくグリエルモの目には彼女の感情が、若干冷たい感情に映ったのかもしれない。
「はい。自分についてきていただければ結構でございます。必ずお守りいたしますので!」
グリエルモはポーションを身体中に浴び、傷の手当てをしながら力強くフィリアに言うが…
当の彼女はというと…
「いいえ!結構でございます!」
予想もしない返答を力強く言ってきた。
「えっ…フィリア王女…何故ですか…?安全なところに行けば生きられる可能性があるのに…」
「もう王女ではありません。元っ!
「あっ…、これは失礼いたしました…フィリア様、自分の事はグリエルとでも呼んでいただければ結構でございます」
「では、グリエル。後の事は、私一人で行いますので心配は無用です。戻って
「フィリア様…ここからは一人でとは言われても…ここには追っては来ないでしょうが、樹を降りると獣も大勢、時にはモンスターも現れる危険な場所でございます。失礼ですが、フィリア様の…」
「何かあった時は、それまでです。別に貴方の方で心配することはありませんよ」
「いえっ…そうは言われましても…」
「いらないと言ったらいらないのです!」
「申し訳ございません。そうは言われましても今回の件、王からの勅令につき、いかなフィリア様のご命令とは言えきくことができません。ですが、私がフィリア様に不敬を働いたというのであれば、直ぐに代わりの者を手配するようにいたしますゆえ、ご容赦いただけませんでしょうか?」
「あー、勘違いさせたようで申し訳ありません。別に貴方に不満があるかというわけではありません。むしろ今回の件について、貴方は自身の身を省みず良くやってくれたと思います。
「いえっ…フィリア様、そういうことではなく…」
「では、どういったことなのでしょうか?」
「あのっ…失礼かもしれませんが…ハッキリと直接的に申し上げても宜しいでしょうか?」
「もうワタクシは王族ではありませんからね。いいですよ!どうぞ!」
「貴方一人では、ここから生き残れないと言っているんです!」
「だから!こちらもそれでいいと何度も何度も言っているではありませんか!」
「何故ですか?と言うよりも、貴方には助かりたいという気持ちはないのですか?」
「何故、貴方にそこまで話さなくてはいけないのですか?」
「先程の羊皮紙にもあったように、貴方に生きて欲しいと願う者の一人だからですよ」
「願うですってぇ~、何も知らないで良くもまぁ~言えますよね。貴方はワタクシが今、どのような状態なのか分からないから言えるんです」
「王を始めバビロンの関係者からは急ではあるが全て話は聞いています!それに私はキマイラ討伐にも参加していました。それはフィリア様もご存じですよね?」
「はい、それは確かに覚えております。直にお会いして礼も言わせていただいたくらいですから」
「それであれば
「痛いっ…あの時とは状況が違うのです…」
グリエルモは自分の言葉に力が入り、フィリアの肩を思わず強く掴んでいたらしい。
フィリアは静かに一言だけ言うと、直ぐに彼の手をはね除け距離をとる。
慌てて行うその様は何かに恐怖して逃げ出す様のようにも見えた。
「それに…、猪討伐の時にも私はいました。貴方が猪にしたことも、貴方が変貌を遂げる様も全て見ています。その私から言わせてもらいたい!貴方には生きて欲しい!」
「うるさい…であっても…」
彼女の言葉はどんどん少なく、そして小さなものになっていく…
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