1ー60★変化

油断した…

顔は分からないが見た目は小さな子供。

手に持っているのは木の枝一本だけ。

武器をフードの中に隠しているかもしれないが、装備して使うには若干の時間がかかるはず。

だから、こんな子供なんて怖くないと思い無警戒に近寄ってしまった。


『あぁ~、やっぱりおにいさん、油断してたねぇ~。ダメだなぁ~』

『うるせぇ。お前に言われたくねぇよ。』

『そうなのぉ~?今の状況で言えるのって僕しかいないと思うよぉ~!それとも他にいるのぉ~?』


[他にいる]


俺はこの言葉に、引っ掛かりを覚えた。

というのもモンスターが2匹にアスタロトで3匹(人間っぽいアスタロトだけどこの場合は…)。

アンテロは4匹と言っていたのだ。

と言うことは少なくとも、もう1匹いるはず。


『おい、アスタロトって言ったか?お前のお仲間のモンスターは後、1匹いるんだろ?どこに隠れてるんだよ!』

『えぇ~?僕、何匹のモンスター連れてきたとか言ってないんだけどぉ~』

『こっちはお前らの情報なんて最初から掴んでるんだよ』


もちろん掴んでない。

思いっきりのハッタリだ。


『おにいさん、それはチョッと強引な感じがするよぉ~。もし掴んでたら槍のおねえさんは槍じゃなくて弓矢とか装備してそうだしぃ~』


やっぱりバレたって思ったけど…


(あれ?セアラが弓矢使えるって何でわかるんだ?間違いない。なんかコイツ特殊能力あるっぽいな…)


先ほど、ソフィアの事をおばあちゃんと言ったときも感じた違和感。

ソフィアの事もセアラの事も俺の考えでは外見では知りえない情報に感じる。

それをアスタロトは言い当てた。

俺の中でコイツが普通の子供ではないことは、ほぼ確定事項と言える。


『だとしても、お前が不利な状況というのは変わらないんだよ。それともさっきの口笛はハッタリか?』

『口笛がハッタリ?おにいさん、面白いこというよねぇ~。でもそれは面白すぎて逆につまらなくなってくるよぉ~。ねぇ~、おにいさん、気づかないのぉ~?』

『はー?お前…』


「嘘は言うなよ」という言葉を出しそうになった。

コイツの言葉は平静どころか、終始余裕が溢れている。

仮面の表情もニヤニヤして、何かを考えているのか弄んでいるのか…

ハッキリとは分からない。

だが、コイツが俺と会話をしているのには何か意味があるように思えてならない。


コイツの言う通りにするのは癪だが、とりあえず俺は周囲を見回した。


遠くの方ではアンテロとエルメダが虫の対処をしている。

依然として虫の数は多いようだが、黒い霧は薄くなっているように感じた。

もう少し時間をかければヘンリーとラゴスの姿も見えるかもしれない。


悪魔の樹デビルツリー本体は根の対処に追われているようだ。

アンテロの粘液をどうにかしようと根がもがいているように見える。

最初見たときは無数に伸ばせると思ってしまったが、どうやら根の数にも限界と言うのがあるのかもしれない。


そして、ソフィアが俺から少し離れたところで火炎魔法を使い実の対処をしている。

悪魔の樹デビルツリーの葉は俺も注意深く見ているが、何ら不思議な動きはない。


周囲を見渡しても大きな岩が俺の側にあるだけで何もないように思う。

俺は自分の目線を届く範囲限界までのばす。

そのまま周囲を観察した後、再びアスタロトの方へ向けた。


『おい、お前!周り見ても何もないだろ!やっぱさっきの口笛はハッタリだろ!』

『へぇ~、さっき見ているときは面白かったんだけどなぁ~。でも見るのが面白いからと言って、やるのも面白いかと言われたら、それは違うんだよねぇ~。やっぱり一番退屈そうという評価は適切だったんですねぇ~。ということで!えい!』


アスタロトは自分の話が終わると掛け声と共に大ジャンプ!

見事に弧を描きながら俺の横にある大きな岩のてっぺんに飛び乗る。

ジャンプして俺の上に来たときにアスタロトの靴が見えた。

靴には羽のような模様が一瞬見えたから、もしかしたらマジックアイテム?特殊装備?そのようなものの類いなのかもしれない。


『そっから狙ってくるってことか?面白いじゃないかよ。何があるのか知らないが、来るなら来いよ』

『全くぅ~、狙うとか…おにいさんは、どんだけ周りが見えてないの?まー、いっかぁ~、もう少しおにいさんに付き合ってあげようかなぁ~』

『はっ?何言ってんだよ。それなら、そんな岩に登ってないで降りてこいよ!』

『岩?あー、ハッハッハッぁ~、岩ぁー?岩ぁー?おにいさんには、これが岩に見えるのぉ~?』


俺には何が面白いのか分からない。

だがアスタロトは俺の言葉の後、大爆笑という感じで腹を抱えて笑いながら俺を指差し言ってくる。

恐らく、コイツは俺が飛び道具の類いを持っていないということは、葉に隠れて見ていたときから予想がついていたはず。

それ故に岩の上にジャンプしたのだろう。


(位置取りミスったかな…)


確かに俺は飛び道具を持っていない。

なので大きい岩に飛ばれると攻撃ができないが、それは相手も一緒のはず。

そう考えると何故アイツが岩の上に乗ったのかイマイチ不思議に思った。


(そういえば、この岩って…)


俺は辺りを何気なく見渡した。

理由はこの岩が邪魔だからだ。

今、アスタロトに登られて攻撃できないでいる。

思えば…この岩いつからあった??

最初からあったのか…?


俺はしつこいくらいに再び辺りを見渡した。

ヘンリーとラゴスがいるであろう位置と悪魔の樹デビルツリーを結んで反対側。

ヘンリーの掛け声後、俺とエルメダ、セアラ、ソフィア、アンテロが最初に向かった位置を何気なく見た。

悪魔の樹デビルツリーから20mほど離れている位置。

そこには大きな岩があって、そこに隠れていたはずだ。

だが…見てみると、その大きな岩が見当たらない…


(あれ?なんで?確かあそこに大きな岩が…)


俺は自分の見ている景色に一気に違和感を感じた!

何かが違う!

だが原因が分からない!

顔から血の気が引いていくのが分かる。

自分が狼狽しているのが分かる。

だが原因が分からない。

俺は、アスタロトを見た!


『もぉ~、おにいさんってばぁ~、やっと分かったのぉ~。鈍すぎだよぉ~』


ふざけているのか怒っているのか分からない。

アスタロトは頬を膨らませながら言ってきた。

それに対して俺がアスタロトに、もう一度喋ろうとしたのだが…


イキナリ、風に襲われた!


今の衝撃はなんだと思ってみてみると…

岩に大きな羽が2つ生えていた…


『はー?何だよそれは!』

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