1ー25★怒濤の勢い
俺は子供達の食欲を侮っていたらしい。
最初のうちは元気な子供達だな~と思って張り切ってポテチーズを作っていた。
だが、1時間たっても俺の手が休まる時間は来なかった。
次第にイーグルの面々やモルガンたちも合流して、食欲の波は勢いを増しているようだ。
そうなるとエルメダとアンテロがかわいそうになってくる。
俺はフェンにアピールが出来る機会なので、全然我慢できる立場と言える。
だが、二人は俺のお願いに善意で答えてくれている。
特にエルメダは討伐を終えたばかりで、疲れている上に夕飯もろくに食べていないはずだ。
皿の上に盛られたチーズをかけるときには喉をならしている。
(お願いだから…泣かないでね…)
流石に、これは限度が…と思っていると、フェンとその何人かがこちらの方へ寄ってきた。
『アタルさん、遠くから見ていたんですけど、この勢いは凄いですね。思わず笑ってしまいましたよ』
『ホントだね、みんなの食欲を嘗めてたよ…収集つけらんなくなってきたよ…』
俺が手を休めないようにフェンと会話をしていると、何人かが既に空になった皿とゴミを客席から回収してくれている。
『あれ?あの回収してくれてるのって…』
おれは知らない人がと思い、思わず声をかけようとした。
『あー、アタルさん、あの方達はうちの系列の従業員ですよ。手伝いに使ってください』
『本当?それは助かるよ!ありがとうな』
『じゃないと、いつまでもゆっくり話できなさそうでしたからね』
確かにこのまま行くと俺は、芋揚げのみで一生を終えることになるかもと覚悟するほどの忙しさだ。
それに正直、皿やゴミの処理など実際の接客作業については、ほとんど考えていなかった。
(俺ダメダメだな…)
それをプロが補ってくれるというのだから、これ程ありがたい話はない。
助っ人の従業員は効率よく回収作業を終えると、アンテロの方へ行きスペースを空けてもらい、一人が皿洗いを開始した。
残りはエルメダの方へ行きポテチーズ運びを手伝ってくれるようだ。
さすがの効率さだ、これならもう少し時間がたてばエルメダも食事休憩がとれるかもしれない。
俺はフェンに感謝をしつつ、周囲を再び見回すと端の方に奇妙な光景を見つけた。
どうやら大人が3人いて2人が座っている?
(座るというか…あれは正座だな…)
正座をしているのは、ラゴスとモルガンだ。
スルトは2人の前で瓶を持って大声を出しているように見える…
(あー、酒を持ち込んで怒られてるのね…しょうがないな…)
俺は何だか変な光景に苦笑いをしつつ、若干落ち着いてきた雰囲気に安心してもいた。
フェンの従業員が助っ人に来てくれて約2時間ほどが経過しただろうか…
夜も更けてきたので、そろそろ子供達は孤児院に戻る頃らしい。
エルメダの役割は従業員が代わりを務められるということで、エルメダには休憩ではなく終了でいいと伝えた。
嬉しそうに皿を手にとって孤児院のみんなのところに合流していたのは感慨深いものがあった。
アンテロには食事の後も手伝って貰ったが、ピークを過ぎているのもあってか、そこそこに会話する余裕はあったように感じる。
やっと俺の方も一段落つけることができ、用意しておいた芋が少なくなったので、パンにギーを塗って食べていた。
『あれ?ギーって、こんな食べ方もあったんですか?これでもじゅうぶんにいい感じですね。むしろ、こっちの方が手軽に使えるのでいいかもしれませんね。』
『えっ?そうなの?結構頑張って考えたんだけど…』
『この辺の方達は油を使った料理というものに慣れていません。確かにポテチーズは、おいしいので受けはいいと思っていたのですが…でもこんな感じで広めるのもありだと思います』
(張り切りすぎたのか…)
フェンにもパンとギーの組み合わせを味わってもらった。
後は独り言のように呟いていたかと思うと、従業員二人を呼んで至急パンを用意するように言ってきた。
どうやら従業員達にも試させるらしい。
『それとナカノさん、こちらの空き地って今後正式に賃貸って出来ますか?』
『いやー、ここって孤児院の土地じゃないのかな…ちょっとスルトさんに聞かないと何とも…って何で?』
『油で揚げた料理って慣れてないけど受けはいいと言いましたよね。それなら、ギーを直接販売するよりはギー専門の料理屋なんかやって、そこでギーの販売なんかもやった方が商売的にいいと思うんです。そうなるとアタルさんの方からギーを仕入れることになると思います』
『料理屋の場所ってこと?』
『そういうことです』
『なるほどね、後でスルトさんに話しておくよ』
『お願いします』
(とりあえず良い感触みたいだ)
ふと横の方を見るとアンテロと従業員達が仲良く話をしている。
アンテロからポテチーズのことを色々と聞いているようだ。
今日の怒濤の勢いを思いだし大きな延びをしたのだが、俺は自分の左手に若干の違和感を感じた…。
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