1ー26★予期せぬ返事

アンテロとスルトが喧嘩をしている。

俺は突拍子もなくエルメダから戦士系ギルドで、そう聞かされた。


『アンテロさんって、先日のポテチーズでナカノさんの手伝いしてた方ですよね?』


俺がエルメダの話を聞いて考えていると、ヘンリーが言ってきた。

エルメダに事情を聞いてみようとしたのだが、どうやら言えないこともあるようだ。

とりあえずお世話になっているので蔑ろにするわけにもいかない。

イーグルの面々と話し合った結果、今日の討伐は中止して様子を見に行ってはどうかということになった。



エルメダとムーブで孤児院に行くと、到着した小部屋の隅のテーブルにスルトが真剣な顔でアンテロを睨みつけていた。

俺とエルメダがムーブで到着するのを見ると、一瞬気まづそうにはするのだが、すぐに目線をそらしスルトは再びアンテロを睨みつけている。


『あのー、エルメダに呼ばれたんですけど…どうしたんですか…一体…』

『いやー、お恥ずかしいところを…』

『お嬢様!何故、ナカノ様にもお話を…』

『エルメダに呼ばれたこともあるので、俺も話混ぜてもらっていいですか?』


どちらも仕方がないという感じが顔から思いっきり伝わってきた。

そこで事情を聴いてみると…


先ず、今日この場に呼び出したのはスルトの方だと言う。

内容はフェンの方から隣の空き地で飲食店を開きたいと言う話があり、アンテロにも手伝って欲しいと言うものだった。

フェンの話には一部従業員に孤児院の子供を雇ったり、倉庫代わりに孤児院のスペースを使わせて欲しいなど要望があったそうで、現金収入に乏しい孤児院としては是非とも行いたい内容なんだとか。

それでアンテロを呼び出して聞いてみたところ…

返事はまさかの[NO!]で、それどころか近々修道院を出て旅に出たいと言う始末。

おまけに理由を聞いても言いたくないの一点張りときたものだから、スルトは怒ってしまったのだそうだ。

近くで見ていたエルメダが、どうしようもなく戦士系ギルドに行ったときに思わず俺にと言うわけらしい。


『アンテロさん、お店で働くかどうかってのは良いとしても…せめて…修道院やめる理由くらいは…』

『そうだ!アンテロ!訳くらいは話すべきだ!』


言われたアンテロは、いかにも説教を受けていますと言う顔で下を向くばかりだ…


(でも、あんな顔の時って意外に堪えてないんだよね…)


小さい頃、親に怒られた経験を思い出しつつアンテロの腹は決まっているんだろうなと考える。

だからと言ってスルトの気持ちも分からなくはない。


『アンテロさん、せめて何故理由を言えないのかを話すこともできないですか?』

『えっ…それ言ったら理由話してるのと一緒ですよね?』

『と言うことは理由を知るとみんなが止めることなんですね…』


一瞬、しまったと言う顔を浮かべてアンテロが再び下を向きだした。


(なんか引っ掻けみたいで気分良くないけど仕方ないか…)


『この前の奴隷商人…』


俺の言葉に最初に反応したのはエルメダだ。

そして呟くようなエルメダの言葉を聞くと、アンテロの顔が観念したかのように力の無いものになった。

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