1ー10★覚悟
気がつくと夕方になろうとしていた。
走ってはモンスターの処理とアイテムの回収、終わったらまた走る。
ひたすらこの行動を繰り返していて、途中から考えるのをやめた。
ようやく今日の仕事も終わりかなと思っていると、ヘンリーとソフィアが何か相談をしていた。
『ナカノさんって、レベルを上げるためにサポーターになったんですよね?』
『はい。自分一人でいきなり戦うのは無謀だから、サポーターとして勉強しろってモルガンさんに言われました』
『なるほど、それならちょうど良いかもね』
ヘンリーがソフィアに言うと、ソフィアが俺のそばによって来た。
『あそこにモンスターが1体いるのが見える?』
『あー、はい。確かにいますね』
目線を向けると
(でかいバッタだ…)
『1体しかいないし、貴方の相手に良いと思うの』
『えっ……戦い方なんて全く分からないですけど…』
『あいつ1匹なら命の危険はないですよ』
『危険はないって…大丈夫ですかね…』
『周りに俺たちもいるし、なんとかなるだろう』
イーグルの面々が色々言ってくれるので、俺は段々その気になって戦う決意をした。
俺はヘンリーの指示に従い懐にしまっている剣をいつでも抜けるように柄を触りながらゆっくりバッタとの距離を詰めた。
暫く詰めるとバッタも俺の存在に気づいたようだ。
全く別の方を向いていた顔をいきなり俺の方へと向け、背の部分にしまっている羽根をこれでもかと大きく広げて大きな声で俺を威嚇してきた。
「シャー!」
と言う声を聞いて俺が一瞬怯んだのが分かったのか、姿勢を前傾にとってきたように見えた。
『ナカノさん、視線は絶対にジャイアントホッパーから外さないように』
俺はバッタから視線を外さないようにして、ギルドでもらった剣を抜いて円を描くように距離を一定に保っていた。
バッタは俺だけをロックしているように感じる。
位置どりがバッタを中心に俺とヘンリーが等間隔の距離で一直線に並んだところで、バッタが俺に飛びかかってきた。
考える暇なんてない。
俺は夢中で自分の剣をバッタめがけて振り抜くと、バッタは空中で旋回するように距離を取り出した。
バッタの左前足だけが短くなって、そこから透明な液体が流れているのだ。
どうやら俺の一撃はバッタの左前足をヒットしていたらしい。
俺は状況を把握すると、途端に全身が震えているのが分かった。
山小屋からルートへ向かう途中は、4人のドワーフ達の戦いを見ていた。
あの時、命のやり取りを目にして俺は自分の心構えを改めたつもりだった。
だが俺は実際にバッタと戦闘をしてみて、それが間違いだと気づいたのだ。
命のやりとりとは自分も命を奪われると言うことである。
モンスターも必死に生きようとしているから、俺に向かってきた。
俺も生きたいからモンスターに向かっていかなければいけない。
バッタは俺を見ながら最初と同じように前傾姿勢をとってきた。
先程の突進は俺にとっては早い一撃だったが、バッタの動きは直線的だ。
今度は剣を両手で持ち自分の前に縦に構える。
来るなら来いと思った直後、再びバッタが飛びかかってきた。
バッタの突進に合わせて俺も一気に間合いを詰めて突進していく。
『ウルアァァ!』
何とも言えない大声を上げると剣先に柔らかい感触が伝わって来る感じがした。
俺に頭を貫かれたバッタが俺の横で必死にもがいている。
そのまま見ているとバッタは動くのをやめていた。
何とも言えない感覚が胸を襲った直後に自分の背中に小さな衝撃が走った。
『ナカノさん、おめでとうございます。胸を張って良いですよ。』
『やっぱり私の目に狂いはなかったようね』
『なんじゃ、ワシは逃げられちまうと思っていたが、意外とやるではないか』
ヘンリー、ソフィア、ラゴスが声をかけるが俺の耳には全く届いていなかった。
『おめでとうって……おーい!大丈夫かな~?』
最後にセアラが俺の肩を揺すりながら声をかけてくれて、やっと気づくことができた。
『ありがとうございます』
たった一言だけ言った俺の顔は、どんな顔だったのだろうか…
確かセアラがモンスターの後処理をしてくれて、ヘンリーの指示のもと正門までムーブで返ったはずなのだが、正直なところ覚えていない。
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