序ー5★命のやり取り

ガサゴソという音に注目して見ていると、視線の先から体調70cm程のかなり大きな蟻が姿を見せた。

全身黒光りの蟻は細かく前歯をカチカチと鳴らしながら、こちらを値踏みするように大きな目を何度もゆっくりと動かしている。


(え?後ろから??これがモンスター??キモい…怖いんだけど…)


俺が恐怖でパニックになるのを必死で堪えている中で、ティバーの4人は目線を蟻からそらさない。

数秒の沈黙の後でアンバーが3人に指示を飛ばした。


『ニモイ、周囲に他の影はあるか?』

『ないよ』

『ペレン、1撃で行けるか?』

『もちろんじゃ』

『エイジ、動きを止めて』

『アースウォール!』


ノルドが俺に見せてくれた魔法をエイジが蟻のすぐ後方に発動させた。

1mほどの高さしかないが蟻が驚き後ろに視線を流した瞬間、ペレンが一気に加速する。


『貰っったぁぁぁ!!』


ペレンの叫び声の後に蟻を見ると、首から上が跡形もなく緑の体液を吹き出しているモンスターだった物がいた。


(うわっ…グロいよ…子供に見せられないよ…と言うか大人の俺でもひいちゃうわ…)


俺が初めて見る戦闘に驚きを隠せないでいるとフェンが細い目を一層細くして笑いながら言葉をかけてくる。


『この辺りでは毎日数回こんな感じのことが続きます』


(毎日続くの??異世界ってこんなにハードなのかよ…)


『一応、アタルさんもこれからモンスターと遭遇することはあるかもしれません。なので後処理についても見ておいた方が良いと思いますよ』


フェンの言葉の後にアンバーが握り拳くらいの大きさの石を見せながら説明してくれた。


『この石みたいなやつは一般的に魔石と言われている。今回戦ったやつも含めてモンスターというのは魔素と言われるモノが原因で生みでるんだ。ナカノさん、目をそらさずに良く見ててごらん。』


石を蟻の方へ近づいていくと蟻が僅かに光ったと思ったら、石に吸い込まれるように消えていった。


(何これ…一瞬で無くなったよ!)


『モンスターを動けなくして魔素を魔石に取り込むことで、ようやくモンスターの討伐が成功ということだよ。』

『この魔石って魔素を無限に吸い込めるんですか?』

『一応、魔石によって限界はあるらしいけど、限界が来る前にいつも買い取りをお願いしているから詳しくは分からないな』

『買い取りって!この魔素って売れるんですか??』

『登録所やギルド、一部の商会なんかでは買い取ってくれるよ。もちろん今回契約しているロスロー商会の方でもね。』


アンバーの言葉を聞いてフェンの方を見ると、細い目を一層細くして会釈をして来た。


(そんな嬉しそうな顔ってことは結構な取引ってことか!)


『ナカノさんは旅人らしいけど、そうなると冒険者とか戦士とかを希望するのかな?』


(冒険者とか戦士とかって…危険な香りがする…)


『アタルさんの方はノルド様から、自立できるまでは目をかけるように言われています。幸いいただいた軍資金も少し余計にあるので急いで決めることもないと思います。』


フェンのこの言葉が今の俺には非常にありがたかった。

命のやり取りが近くで行われるなんて初めての経験だ。

だがなるべく早くに決意を固める必要があるのではないかとも同時に思ってしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る