序ー4★山小屋を離れて

俺は今6人で山道を歩いている。

すぐ前にいる男は恰幅の良い体格に同じくらいの背丈で、上から下まで生地の良さそうな茶色の洋服を身にまとっている。

先日ノルドが言っていた商人で名をフェン・ロスローと名乗っていた。

種族的には俺と一緒の人間と言っていた。

ロスロー商会の三男坊らしく、山小屋をルートとは逆に下山して1日ほど歩くとガルドの王都であるミモザと言う都市があるのだが、そこからルートへ帰る途中で山小屋に寄ったということらしい。


ノルドから話が合った4日後にフェンは山小屋に到着した。

初めて会ったときはかなりキナ臭い顔をされていた気がする。

特に今は俺とフェンを挟むように前に2人と後ろに2人の護衛となるドワーフの戦士っぽい男達がいるのだが、この護衛達は臨戦態勢をとりながら俺を睨み付けていたように思う。

日本から異世界に来た俺の服装は上下が黒のスーツなので、この世界の服装とは明らかに異質な感じがする。


(確かに怪しく思われていても仕方がない気がするよね)


そこで状況説明をしてくれたのがノルドだったのだが、これには参ってしまった。


俺の方は元々が日本にいて、ここが元の世界と全然別と言う認識はある。

だがノルド本人の場合、今いる世界が異世界と言う認識は全く持ってないようだ。


どうやらフェンと護衛達の方へ俺の事を別な大陸から来た旅人で、ここに来る途中で魔物に教われたかわいそうな人として話し出してしまった。

更には荷物も構わずに放り出してショックのあまり、記憶喪失にまでなった人だから優しくしてとまで言い出す始末である。

お陰でみんなの視線が警戒から憐れみに変わってしまった次第なのだ。


ちなみにフェンの護衛のドワーフは4人ともが体は俺よりもガッチリしているが、背丈は140cmほどしかなく想像通りのドワーフの姿に俺は安心した。


4人はティバーと言うチーム名で何でも有名な伝承に出てくる英雄の名前らしい。

一番前にいるのは両手で大きな盾を装備している見るからに前衛と言う感じの男でアンバーと名乗っていた。

アンバーの斜め後ろには腰に2本の剣を携えて短めの槍を構えるエイジと言う青年のようなドワーフ。

3人目は俺の斜め後ろに位置を取り弓矢を構えているニモイ。

最後は片手にハンマーを持って殿の位置にいるペレンと言う老人のようなドワーフである。


ノルドからの状況説明の後はアンバーが俺の肩を優しくたたき握手を求めてきた。


全くノルドは外見は怖いんだけど、面倒見は本当に良いドワーフなのだが、ここでも1つ不思議なことがあった。


フェンとノルドの会話を聞いていると、ノルドの事を【ノルド様】と呼んでいたのだ。

会話全体もノルドをかなり敬っているしゃべり方だったのだが、実は偉い人なのかもしれない。


(でも見た目が怖いから仕方なく敬語を使っていたのかもしれない)


ちなみにノルドは俺に対して最後まで世話を焼いてくれた。

小さめの不思議な袋の中に共通通貨という3国とルートのどこでも使える金貨と銀貨を一握りづつと護身用にナイフまで入れてくれたのだ。


フェンによるとノルドのくれた金額は結構多いらしく、ルートについてからの生活の安定はどうにかなると言っていた。


(顔は怖いけど気前の良いノルドには本当に感謝しかない)


山小屋からルートまでの道のりは徒歩で3日くらいらしく、その間には必ずモンスターに教われることになるらしい。


『そろそろ適当な場所でお昼にしましょうか?』


フェンが俺と護衛の人達を見ると、ペレンがハンマーを持っていない左手の人差し指を立てて口の前に置いた。


一行に緊張が走り静かになると同時に、5mほど後ろの茂みがガサゴソと揺れているように感じた。

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