有原組リレー小説 三番手作者 有原ハリアー

翌日。

 私はいつも通り、けれどモヤモヤした心で学校に向かった。


 通学路で咲ちゃんを見つける。咲ちゃんもまた私を見る。

 でも、私達はお互いに話しかけなかった。


 そんな事を繰り返して二週間。

 変化が起きたのは、自宅に帰ってきた夜だった。


「御桜、いる?」


 私が自室にこもっていると、お母さんがノックしてきた。


「はーい」

「邪魔するわよ」


 お母さんは遠慮なく、私のベッドに座る。


「ねえ、何かあったんでしょ?」

「何も無いよ」

「嘘をつくんじゃありません。お母さんは何があったかお見通しなのよ。ねえ、御桜。悩み事があるなら言って?」

「何も無いってば!」

「じゃあなんでそんなに落ち込んでいるの!」


 今の一言に、私はビンタされたような衝撃を受けた。


「二週間前からずっと、貴女は変だったわ。今日みたいに落ち込みっぱなし。おかしいわよ。まさか、イジメでもされたの?」


 ああ、お母さんはホントに分かってるんだ。


「ううん、イジメはされてないよ。ただ……」

「ただ?」


 しょうがない。素直に言わなきゃ。


「転校生の女の子にさ。『友達じゃなきゃ、ダメ?』って言われて。私は『親友でいこう』なんて言っちゃって……それからずっと話せてないの」

「なら話しなさい」

「それが出来れば苦労はしないわよ!」

「じゃあ聞くわ、御桜。どうして『話せない』って思っているの?」

「ッ!」


 何で。何で、咲ちゃんと話せないって思ってるんだろう。

 ……思い出せ!


「……怖いから」

「何に?」

「咲ちゃんに謝っても、もし許してもらえなかったら……」

「そう」


 私が震えながら呟くと同時に、お母さんは落ち着いた声で呟く。


「御桜。その“もしも”を恐れて、ずっと言わなかったらどうなるかしら?」

「分からない……」

「一生『もし許してもらえなかったら』という悩みがつきまとうわよ?」

「それは嫌!」


 即答だった。


「なら、言いなさい。それに、咲ちゃんていうのね、その子。そんなに話題にするくらいなら、本当は御桜も思ってるんでしょ? 『仲直りしたい』って」

「うん……」

「決まりね」


 お母さんは、部屋を出ようとする。


「待って、お母さん!」

「?」

「そ、その……ありがとう」

「いいのよ。娘の悩みに付き合うのが母親だもの」


 それだけ言い残し、今度こそお母さんは部屋を後にした。


     *


 月曜日。

 私はまた寝坊したけど、今日はそれで構わない。

 咲ちゃんと仲直りするんだ!


「はぁ、はぁ」


 いつもの道を走っている。


「……」


 と、私とは違う呼吸が後ろから響いた。


「えっ?」


 立ち止まろうとすると、誰かは先回りしてきた。


「おはよ、御桜ちゃん」

「咲ちゃん!?」


 まさか咲ちゃんも、たまたま一緒のタイミングで遅刻したのか。

 けど、これはチャンスだ。今、言わなきゃ!


「咲ちゃん、ごめ――」

「ごめんなさい!」

「えっ?」


 何で? 何で咲ちゃんが謝るの?


「いきなりあんな事言われたら、誰だって引いちゃうよね? ごめんなさい!」


 私の戸惑いもよそに、咲ちゃんは謝り続ける。

 我に返った私は、いつの間にか妙に落ち着きながら、「いいんだよ、咲ちゃん」と言っていた。


「私こそごめんね。ホントは咲ちゃんと仲良くなりたいのに、あんな風に振っちゃって。けど、今だから言わせて。私は咲ちゃんを一目見てから、友達でも、親友でもない、それ以上の関係として一緒にいたいと思ってた。咲ちゃんを振った日の夜、気づいたんだ。だから咲ちゃん。私の大切な人に、なってください」

「……」


 咲ちゃんからの返答は無い。

 これは、まさか……。


「いいよ」


 ……え?


「私もそうなりたいと思ってたの。御桜ちゃんとは、大切な人どうしでいたいって」

「咲ちゃん……」

「だから、御桜ちゃん。これからずっと、よろしくね」

「咲ちゃあああん!」


 私はたまらず、咲ちゃんに抱きついて泣き出した。


「えっ、ええっ、御桜ちゃん!?」

「咲ちゃあああん、嬉しいよおおお」

「わっ、分かった、分かったからっ! ねっ、いったん落ちつこっ……?」


 その後、私達は学校そっちのけで、泣き止むのに時間を費やしていた。


---


「学校、遅れちゃったね……。ごめんね、咲ちゃん」

「ううん、いいの。大切な人が泣いていたら、受け止めるでしょ?」

「咲ちゃん……!」


 私は感激のあまり、また泣きそうになった。


「ねえ、御桜ちゃん。今日は、学校サボらない? 私のお家で遊ぼうよ」

「やったー!」


 私達は笑顔で、咲ちゃんのお家へ向かうのだった。


作成 有原ハリアー

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