有原組リレー小説 一番手作者 一愛

――春。

 それは出会いの季節である。

 桜の雨が降り頻る中、私は始業の鳴き声を校外で聞いた。


「わー、遅刻遅刻~!」


 私は学校に近い家に住んでいて、本来遅刻なんてありえないはずだけど……布団の誘惑に毎日負けてしまう。

 今日も今日とて額に汗かき道路を走り抜け、曲がり角で運命の相手と~なんて起こるはずもない妄想上の約束事を頭の片隅に、学校を目指す。


「今日も御桜は遅刻か」

「いっいえ! ギリギリセーフです!」

「馬鹿言え、立ってろ」


 教室内に広がる嗤いに、私は今日も顔を赤くするのだった。


――そして、放課後。

 普段通りのソロ下校。

 私に友達なんてレア物はおらず、周囲に溜まるのはカラダ目当ての男ばっかり。

 そんな猿達から逃げるため、そしてこれ以上周りに醜態を晒さないために帰宅速度は常に最高という訳で。


「ただいま」

「おかえり~。あっ丁度良いところに! さっき、お隣にあんたと同い年の女の子が越してきたのよ。あんたもそろそろ友達の一人二人でも作った方がいいわよ~、挨拶も兼ねて行ってみなさいよ」

「えー別にいいよ、友達なんて」


 もしかしたら友達ができるかも! と頬を火照らせるけど、拒絶されるのが凄く怖い。

 明日会ったら挨拶しようかな、という低い志しを掲げ、この後誰とも言葉を交わすこと無く眠りに着いた。


――そして、翌朝。


「あーもーまた!」


 もはや習慣化されてきた寝坊。でも、今日はいつもと違うみたい。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 黒髪を長く伸ばした同い年程の女の子が、荒い呼吸と共に後ろを走っている。

 見たことのない制服……でも進む方向が同じだ。

 もしかすると、隣に越してきた子かも!

 何か話しかけようかな、でもそんなことしてたら遅刻しちゃう。お互いに。

 前だけ向いているつもりなのに、何故だか後ろが気になって仕方ない。

 今日も始業のベルが鳴り始めた時、私を追う足音は唐突に止んだ。

 

「だ、大丈夫?」


 自然とそんな言葉が漏れた。

 それも、学校のことなんて忘れて立ち止まって。


「大丈夫。ありがとう」

 

 膝を擦りむいた彼女に、桜の涙が零れ落ちる。

 手を差し出し、彼女を起こす。

 近くで見る彼女は遠くで見た時よりも凛々しく、たくましく見えた。


「私達、遅刻だね」

「そうだね。私は転校初日から遅刻だよ」

「私だって昨日……って、隣に越してきた子だよね?」

「そうだよ。今日、家から君をずっと追いかけてきた。私は咲。これからよろしくね」

「私は御桜。よろしくね。で、できればと、友達……として」


 濡れた私の心に、もう一度小さな炎が灯る。

 こんな些細なことでも、私にとっては大きな事だった。


作成 一愛

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