お題正月 オプス→稲キツネ 第一話オプス

鐘は鳴る。


 まるで想いと唇を重ねた瞬間を祝福するかの様に。


 日は昇る。


 まるで寄り添う2人の未来を照らすかの様に。



 あたしユミと幼馴染のショウはついに、想いを重ね、恋人になることが出来た。


 なんて素晴らしく、晴々とした気分なんだろう……。

あたしの今までの人生の中で最高の瞬間。これほどの高揚感に満ち溢れた正月を迎えた事はない。


「……ユミ」


 愛する人と迎える新しい日。

期待と希望に満ちたこれからの日々を夢想するだけで、胸のときめきが止まらない。


「……おい、ユミ」


あぁ、これからどんな未来を2人で過ごしていくんだろう⁉


「おいったら‼‼」


「えっえ、な、なに?

ショウ、なんか言った⁉」


「また1人で妄想しやがって。

悪いクセだぞ?

ボーッとしてる時に悪さでもされたらどうするんだよ」


「悪さって?」


「そ、そりゃあ…そのアレだよ……」


「あーっ!ショウ、もしかしてイヤらしい事考えてる。

イケないんだぁ!」


「ばっ、バカ!

そんなんじゃねぇよ‼」


「はいはーい、優しいユミさんはそうゆうことにしてあげるっ」


「はぁ……ったく。

いつまでオレはユミに振り回されるんだろうな」


「んっふふー!

いっつまでかなぁ♪」


 あたし達は放課後、行きつけの喫茶店でいつもと変わらない他愛ない会話をする。皮肉も冗談も言い合う距離感も昔から変わらない。


『いつも』


 そう、変わった事も変わる事も無い残酷な言葉。


 あたしはこの言葉に安心感ではなく、恐怖を感じていた。


(いつかショウは誰かと付き合っちゃうのかな?)


 こう思い始めたのはショウがあたしと一緒にいる時間が少なくなってきたのが原因だ。


 たしかにクラスの人気者な彼とは幼馴染というアドバンテージがなければ接する事はなかったかもしれない。

最近じゃ可愛いと評判の後輩ちゃんから言い寄られてるらしい……。

 

 ショウがあたし以外と笑ったりするのを想像するだけで、キュゥと胸が締め付けられて無性に悲しくなってくる。

独占欲ってこんな気持ちになる事なのかな?


 あたしは昔からショウが好きだった。王子様って柄じゃないけど、一緒にいて楽しくて安心する優しい人。ショウ以外にも男友達はいるけど、こんな気持ちになるのは彼だけ。


 来年には2人とも大学生になり、この小さな街を離れる事が決まっている。なんとかしたいと思うんだけど、今の距離感が壊れるのが1番怖い。だから一歩が踏み出せずに『いつも』と同じままここまで来てしまった。



(はぁ……どぅしよぉ………)


「んで、今夜の初詣どうするんだよ?」


「んーそうだねぇ……お父さん達は町内会の集まりらしいし、お母さん達もその手伝いだろうからね」


「じゃ2人で行くか?

昔からずっと一緒なのに2人では初めてだよな」


「ふえっ⁉」


思いもしない提案に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

驚いた周りのお客さんからジロジロ見られて恥ずかしい……。


「そんなに驚くような事かよ、それともイヤなのか?」


ぶすぅっとした顔でショウが問い掛けてくる。あの顔はちょっと不機嫌な証拠だ。わかりやすいけど、相変わらず子供っぽいんだから。

でも嬉しい提案だ、このチャンスを逃すわけにはいかない!


「行くよ、行く行くっ!

じゃあ神社の鳥居のとこで待ち合わせねっ!」


「おぅ、うっかり寝坊すんなよ?寒みーの苦手なんだからよ」


「ショウこそ遅れないでよ?」



しばしのお別れと約束をし、解散したあたし達はそれぞれ帰宅する。さぁ『戦闘準備』だ!


◇◇◇


 約束の時間。


 鳥居の前にはダウンジャケットにニット帽を被り防寒対策バッチリなショウがいた。

そして、待ち合わせに少し遅れたあたしを見つけ、


「おい、ユミ遅せー…ぞ……」


ショウは目を点にして言葉に詰まる。


「どう……かな……?」


あたしはお母さんに着付けてもらった振り袖に身を包んでいた。

着慣れないからか、自分でも違和感がある。


そんなあたしを見てショウは…

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