第36話

「朱莉、連絡先を教えてくれないか?」

「連絡先?」

「そう、また弁当を作ってくるからそういう時に前もって連絡をしてれば無駄にならないだろ?」

「確かにそうだね」

「スマホって持ってる?」

「うん」

あたしは特に何も考えずにポケットに入れていたスマホを取り出した。

そして言われるがまま番号とメッセージアプリのIDを交換した。

「朱莉の親って、スマホの使い方とか厳しく言う方?」

「ウチは仕事で親がほとんど家にいないからそんなに厳しく言われたことはないけど」

「そうか」

「なんでそんなこと聞くの?」

「俺的にはちょくちょく連絡を取りたいと思ってるんだけど、親が厳しかったら朱莉が注意されたりするかもって思ったから」

「それは大丈夫だと思う」

「じゃあ、弁当のこと以外でも連絡していいか?」

「別にいいけど……」

「了解」

彼は満足そうに頷くと

「じゃあ、そろそろ教室に戻るか」

立ち上がり

「うん」

あたしもそれに倣って腰を上げた。


その時、ようやく思い出した。

あたし『お付き合いはできません』って

お断りしなきゃいけないんだったんだ。


そう、あたしは今日きちんと断りをしようと思っていたのだ。

それなのにそれをきれいさっぱり忘れてしまっていた。

あたしは断るどころかまたお弁当を作ってもらう約束をして連絡先まで交換してしまった。


……あたしは一体何をしているんだろう。

自己嫌悪に陥っているあたしを

「朱莉?」

彼は不思議そうに見つめている。


今がチャンスかもしれない。

そう思った。

今なら断れるかもしれない。


まずごめんなさいって謝って、お付き合いすることはできませんって言わないといけない。

頭の中で段取りは完璧にできているのに、その言葉を口にすることができなかった。

言おうとした瞬間、もしあたしが今それを言ったら彼はどう思うだろう?

どんな気持ちになるんだろう?

それを考えたら、言葉にして彼にそれを伝えることなんて、とてもじゃないけどできなかった。


「どうかしたのか?」

そう問われたあたしは

「なんでもない」

そう答えることしかできなかった。

「朱莉のクラスって次の授業はなに?」

「えっと……確か現国だったと思う」

「現国か。俺は科学なんだよな」

「そうなんだ」

「午後の授業って眠くなるよな」

「うん、そうだね」

あたしの頬を春の穏やかな風が撫でる。

心地よく感じるこの場所が天気のせいでそう感じるのか、それとも彼の存在のおかげなのか、あたしには分からなかった。


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白馬に乗った王子様を探していたら不良系肉食男子に捕獲されてしまいました(涙) 桜蓮 @ouren-ouren

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