第35話
……違う。
お礼を言わないといけないのは彼じゃない。
あたしの方だ。
こんなに至れり尽くせりの昼休みを本当ならあたしは過ごしたりできなかったはず。
ひとり寂しく学食でご飯を食べないといけなかった。
ひとりでご飯を食べる事なんて全然平気ですって顔をして平然を装わないといけなかったんだ。
そんな惨めな時間を回避できたのは、間違いなく彼のおかげ。
「こちらこそ」
「ん?」
「ありがとうございました!!」
つい力みすぎて必要以上に力強くお礼を言ったあたしに
「どういたしまして」
彼はとても柔らかく穏やかな優しい笑顔で答えてくれた。
彼のその笑顔にあたしは罪悪感を覚えた。
本当は彼と一緒にお昼ご飯を食べるなんて無理だと思っていた。
彼が作ってくれたお弁当なんて食べたくないとさえ思っていた。
それどころかこれを食べると弱みを握られてしまうんじゃないかなんて疑念まで抱いていた。
でもそれはあたしの過剰な杞憂に過ぎなかった。
彼は下心なんて全くなく、純粋にあたしのためを思ってくれた行動だったのに。
その優しさを疑ってしまったことを強く後悔した。
その時だった昼休みが間もなく終わることを知らせるチャイムが鳴った。
「もうそんな時間か」
彼が呟くように言って、あたしは食事タイムの終わりを悟った。
あたしはこの時間が終わってほっと安堵するはずだった。
それなのになぜかあたしは残念に思ってしまった。
そんな自分に一番驚いているのはあたし自身だった。
……なんであたしは残念に思ったりしているの!?
動揺を隠せないあたしに
「そうだ」
彼は思い出したように口を開いた。
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