第33話

……えっ?

食後のお茶まであるの!?


至れり尽くせりなこの状況にあたしは喜ぶよりも先に困惑してしまう。

手の中にあるお茶はまだ冷たい。

バックに入っていたからかもしれないけども、買ってからまだそんなに時間が経っていないように思えた。

おそらくあたしは教室まで迎えに来る前にわざわざ彼が買ってきてくれたんだろう。


そう予想したあたしはもしあたしが断ったら彼はどうするつもりだったんだろう。

不意にそんな疑問を抱いた。

だって今日一緒にお弁当を食べようって約束をしていた訳じゃない。

もし、あたしが他の人と食べる約束をしていたら。

もしあたしがお弁当を持ってきていたら彼はこの弁当をどうするつもりだったんだろう。

わざわざ作ってきてくれたこのお弁当とわざわざ買ってきてくれたペットボトルのお茶。

もし、これが無駄になってしまったら彼はどうするつもりだったんだろう?

あたしは不意にそんな疑問を抱いた。


「……あの……」

「ん?」

「もしもの話なんだけど……」

「もしもの話?」

彼はランチバッグから取り出したもう一本のお茶のペットボトルの蓋を開けようとしていた手を止めると、あたしの顔に視線を向ける。


その行動はあたしの話を聞こうとしてくれていることが窺えた。

彼はいつもあたしの話を真剣に聞こうとしてくれる。

それは今まであたしが知らなかった彼の一面だった。


「もし、あたしが断ったらどうしたの?」

「断る?」

「うん。他の人とお昼を食べる約束をしていたり、お弁当持ってきてたりしたらどうするつもりだったの?」「どうするって……別にどうもしないけど」

「どうもしない?」

「うん」

「でもそれだとせっかく作ってきてくれたお弁当やお茶が無駄になったかもしれないんだよ?」

「あ~、そう言われてみればそうだな」

「もしかして……」

「……?」

「考えてなかったの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る