第32話

◇◇◇◇◇


彼が作ってきてくれたお弁当をあたしは綺麗に完食した。

二段重ねのお弁当箱にぎっしりと詰められたお弁当はそれなりにボリュームがあったのに、難なく食べきることができた。

とても美味しかったっていうのもあるし、彼と過ごす時間が楽しかったって言うのも食が進んだ理由のひとつかもしれない。

予想外に楽しかったお食事タイムがあたしの食欲をいつも以上に増えさせてくれたのかもしれない。


なにわともあれ、お弁当を完食したあたしは

「ごちそうさまでした」

感謝の気持ちを込めて丁寧に両手を合わせた。


すると彼は

「お粗末様でした」

あたしに嬉しそうな笑顔を向けてくれた。


彼のその言葉と笑顔にあたしは心が温かくなるような感覚を覚えた。


「お弁当箱、明日でいい?」

「明日?」

「うん。家で洗って明日持ってくる」

「いいよ。わざわざそんなことしなくても、そのまま返してくれれば」

「いや、それは」


彼の提案に

……それは駄目でしょ……。

あたしはそう思った。


だってわざわざお弁当を作ってきてもらって、そのお弁当箱洗わずに返すとか、さすがにそんなことはできない。


そう考えるあたしを他所に

「いいから」

彼はそう言って手のひらを上に向けて差し出してくる。


どうやらこれはお弁当箱を渡せってことらしい。

だけど

「……でも……」

あたしは素直にお弁当箱を渡すことができなかった。

「気にしなくていいって」

彼はそう言いながらあたしが持っていたお弁当箱をとると、それを素早くランチバッグにしまい、そこから小さめのお茶のペットボトルを取り出すと

「はい、食後のお茶」

お弁当箱を持っていたあたしの手の中にそれを渡してくれた。


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