第31話
だからあたしは黙ったまま彼を眺めていたけど
「――……あっ!!」
あることに気付き思わず声をあげてしまった。
「……? どうした?」
「……あの……」
「ん?」
「もしかしたらあたしの勘違いなのかもしれないけど」
「なに?」
「髪の毛の色が昨日と違うような気がするんだけど」
「へっ?」
「ご……ごめんなさい。やっぱり勘違いだったかもしれない」
キョトンとした表情を浮かべた彼にあたしは慌てて訂正した。
だけど
「違う」
「えっ?」
「勘違いなんかじゃない。ちゃんとあってる」
「あってる?」
「うん。今日、朝一で染めてきたんだ」
「朝一で?」
「そう。昨日、注意されちゃって」
「注意……それって先生に注意されたってこと?」
「うん。派手すぎるからもう少し地味にして来いって」
……えっ?
そこは『黒に戻して来い』って注意しないといけないところじゃないの?
あたしは思わず心の中で突っ込んでしまった。
「朝から美容室に行ってきたんだ」
……あぁ、だから午前中教室になかったんだ。
「てか、前の色の方が良かったんだけどな」
彼はそう言って、前髪を一束指先でつまむとそれを残念そうに眺めた。
昨日、彼の髪は眩いくらいの金髪だった。
それが今ではまるで別人のように落ち着いた髪色になっている。
一見すると黒っぽく見えるけど、こうして陽の光に当たるとくすみがかった灰色だった。
昨日はいろんな意味でテンパっていて彼の容姿をまじまじと観察する余裕なんて全くなかったけど、整った顔立ちをしていることにあたしは気づいた。
形よく整った眉。
鋭くはあるけど綺麗な切れ長の瞳。
筋の通った鼻。
薄目で健康的な色の唇。
シュッとした顎のライン。
それらがバランスよく配置されている彼は世間ではイケメンに分類される全身人種に違いない。
これはあくまでもあたしの個人的な意見だけど、彼には派手な金髪よりも今みたいな落ち着いた色の方が似合うような気がした。
だから――
「その色も似合ってると思うよ」
あたしの意志と関係なく、そんな言葉が口から飛び出した。
「マジで?」
「うん」
「それならいいけど……」
「なにがいいの?」
「ぶっちゃけ、この色はおとなし過ぎるかもって思ってたんだけど朱莉がそう言ってくれるならこの色にして良かったかもしれない」
彼は嬉しそうにそう言葉を紡ぐ。
なんでそんなに嬉しそうなのか、あたしには分からなかった。
分からなかったけど――
……あたしの言葉は不快感を与えているわけじゃないみたいだし。
それなら別にいっか。
――あたしはあまり深くは考えず無邪気な笑顔の彼をただ眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます