第28話

『そのお弁当ってお母さんが作ってくれたの?』

『うん』

『かわいいね』

『ありがとう。ウチのお母さん、最近キャラ弁を作ることにはまっていて』

『そうなの?』

『うん。けっこう時間もかかるしお仕事もしてるから作らなくていいって言ってるんだけどお弁当だけは作りたいからって言うの』

『えっ? いつも、お母さんがお弁当を作ってくれてるの?』

『うん。出張の時は家政婦さんが作ってくれるんだけど、それ以外の時はお母さんが作ってくれるよ』

『……そうなんだ』

『小櫻さんは?』

『……えっ? 私?』

『うん。小櫻さんのお弁当もお母さんが作ってくれるの?』

『ううん。私のお弁当はおばあちゃんが作ってくれてるんだ』

『そうなんだ。優しいおばあちゃんだね』

『そうだね』

その時、私は友達のお弁当をお母さんが作っていると聞いて大きな衝撃を受けた。

だって我が家ではお母さんが料理をしないことは当たり前のことで、私はそれが普通なんだって勝手に思っていた。

だけど私のその認識はどうやら間違っていたらしい。

それに気付いてから私は、無意識のうちに他の子のお弁当にも意識を向けるようになった。

するとほとんどの子のお弁当はお母さんが作ってくれていることが分かった。

たまに家政婦さんに作ってもらっている子もいたけど、お母さんに作ってもらってる子がほとんどだった。

そして、お母さんにお弁当を作ってもらってる子のお弁当は彩りも鮮やかで、可愛らしい。

おかずもおしゃれで中学生が喜びそうなものが入っている。


私はいつしか友達のお弁当を羨むようになっていた。

おばあちゃんが作ってくれるお弁当が嫌ってわけじゃない。

でもお母さんが作ってくれる可愛らしいお弁当をいいなと思うようになっていた。


もし私がお願いしたらおばあちゃんもそういうお弁当を作ってくれるかもしれない。

ううん……絶対に作ってくれると思う。

だけど私はおばあちゃんにお願いすることはできなかった。

もし私がそんなことをお願いしてしまったら、おばあちゃんが作ってくれるお弁当に不満があると思われてしまうかもしれないと思ったから。

おばあちゃんが作ってくれるお弁当に不満なんてない。

だから友達のお弁当に対する憧れを私は胸の内に仕舞い込んでいた。

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