第27話

「味も気に入ってもらえるといいんだけど」

「い……いただきます」

「おう、召し上がれ」


あまりにも可愛くて食べるのが勿体ない気がする。

何から食べようか迷いながらも私は卵焼きを箸でつまみ口に運んだ。


口に入れた途端、柔らかく優しい味が広がった。


「……おいしい」

「マジで?」

「うん、とってもおいしい」

「良かった」


百鬼 大翔は安堵の笑みを浮かべた。


「私、こんなかわいくておいしいお弁当食べるの初めてかもしれない」

「そんなことないだろ」

彼は笑いながらそう言ったけど、私の言葉はお世辞でもなければ冗談でもない。

本当にこんなお弁当を食べるのは初めてだった。


「ううん、本当なの」

「そうなのか?」

「うん。ウチのお母さんは仕事が忙しいからお弁当を作ってくれたことはほとんどなくて」


お弁当だけじゃない。

私のお母さんは家事が大の苦手な人だったりする。

家事は全くできないけど、仕事はバリバリできる。

キャリアウーマンタイプの女性なのだ。

そんなお母さんは料理もほとんどしない。

彼には『仕事が忙しいから』そう言ったけど、多分仕事をしていなくてもお母さんは料理を進んでするようなタイプじゃない。


お父さんとお母さんと私。

たまに家族そろって食べる食事は、お母さんの手作りじゃなくて外食が多い。


「えっ? そうなのか?」

「あっ、でもお弁当が必要な時はおばあちゃんがいつも作ってくれるんだけど」

「そうか」

彼はなぜかホッとしたように表情を緩めた。

なんで彼がこんな顔をするんだろう?

私は不思議に思いながらも言葉を続ける。


「おばあちゃんが作ってくれるお弁当もとても美味しいんだけどこんなにかわいくなかったから」

「……」

「だからこんなかわいいお弁当に憧れていた時期があったなって思い出しちゃった」

「そうなのか?」

「うん」

「だからものすごく嬉しい。ありがとう」


おばあちゃんは料理が上手だから、いつもとても美味しいお弁当を作ってくれる。

でもおばあちゃんが作るお弁当は茶色いおかずが多くてカラフルなお弁当ではない。

それでも作ってくれているんだからありがたいとずっと思っていた。

でも中学生の時、いっしょにお弁当を食べていた友達のお弁当がとても可愛らしくて、それを見た私は大きな衝撃を受けた。

その子のお弁当はいわゆる“キャラ弁”と呼ばれるもので、手が込んでいてとても可愛らしいお弁当だった。

私はその友達に尋ねた。

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