第26話
「非常階段ってどこにあるの?」
「教科棟の非常階段なんだけど人があまり来ないからのんびりできるんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、授業をサボるのにも良さそうで……」
「えっ!? サボる!?」
「どうした?」
「授業をサボるつもりなの?」
「そんなに驚くことじゃなくね? ダルい時とか普通にサボるだろ?」
「……」
「朱莉?」
「……ないかな」
「えっ?」
「授業をサボったことなんてない」
「はっ? マジで?」
「うん」
「朱莉って……」
「な……なに?」
「真面目なんだな」
百鬼 大翔は驚いたように私を見つめてくる。
……いやいや、違うし。
私が真面目なんじゃなくて、それが普通であって授業をサボることが不真面目なんだし。
「てか、早く行って食おうぜ。昼休みがなくなっちまう」
「う……うん」
私は歩き出した彼の後を追いながら
……よし、ご飯を食べる前に断っちゃおう。
私はそう心に決めていた。
◇◇◇◇◇
人気のない非常階段は柔らかい日差しに照らされてポカポカとあたたかかった。
本当ならそんな場所にいたらリラックスできるはずなのに、私はかなり緊張していた。
緊張していたし、目に見えないプレッシャーのようなものをひしひしと感じていた。
私は口内に溜まった唾をゴクリと飲み込み、膝の上に置いてあるお弁当箱を見つめる。
淡いパステルカラーのお弁当箱は小さめの2段重ねのもので、蓋には可愛らしい猫のシルエットのイラストが描かれている。
……これって女の子用のお弁当箱だよね?
彼には妹かお姉さんがいるのかな?
「開けてみて」
期待に満ちた瞳で彼がそう促してくる。
……えっと……これって私のリアクションに期待をしてるんだよね?
その期待が私により一層のプレッシャーを与えてくる。
そのプレッシャーをストレスに感じている私は
……できれば、このままの状態で彼にお弁当を返したい。
私は心からそう思ったけど、さすがにこの状況でそれは許されない。
だから私は仕方なく、覚悟を決めてお弁当箱の蓋を開けた。
そして――
「……かわいい」
思わず呟いた。
それは彼に気を遣っての言葉とかじゃなかった。
「そうか?」
「うん、ものすごくかわいい」
百鬼 大翔が私のために作ってくれたお弁当はとてもかわいらしかった。
彩りがとても鮮やかできれいだし。
ウィンナーがタコさんになっている。
ご飯の上にはほぐした鮭とお花の形に切ってあるニンジンが乗っている。
おかずは卵焼きとソーセージとアスパラのベーコン巻。
コロッケも入っている。デザートのイチゴも食べやすくカットしてある。
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