第24話

彼のまっすぐな眼差しを受けた私は

……どうしよう。

困惑してしまった。

でも私が動けなくなってしまったのは束の間のことだった。


『あれって隣のクラスの人だよね』

『なんでわざわざウチのクラスに?』

『てか、呼びに来たんだよね?』

『え? なに? もしかして付き合ってるの?』

クラスメイト達に控えめの声が聞こえたからだ。


……ヤバい。

直感的にそう感じた私は急いで立ち上がった。

一刻も早くこの場を離れないといけない。

そう思った私は駆け寄るようにして近付くと

「行こう」

私は彼の腕を取って、教室から離れた。

「朱莉?」

彼は困惑したように私の名前を呼んでいたけど、私はそれを気にする余裕はなかった。


◇◇◇◇◇


しばらくの間、私は無言で歩いた。

その間、百鬼 大翔もなにも言わなかった。

なにも言わず私に腕を引っ張られて、されるがままだった。

多分、彼は彼なりにいろんなことを考えていたんだと思う。


一方、私は色んな意味で気分が重かった。

……今頃、教室で変な噂が立っていなければいいけど。

そんなことを考え溜息を洩らした時だった。


「な……なぁ」

控えめに掛けられた声に私は現実に引き戻された。


「えっ? ……なに?」

「どこに行くんだ?」

「へっ?」

私が首を傾げると

「どこかに向かってるんじゃないのか?」

彼は怪訝そうに尋ねた。

私はどこかに行こうと思って歩いていたわけじゃない。

ただ教室から離れたかっただけ。

「あっ……えっと、ごめん。どこに行くんだっけ……」

だから私はそんな曖昧な言葉しか口にできなかった。


そんな私に

「昼飯って食うよな?」

彼は尋ねる。

「お昼ごはん?」

「そう」

「食べるけど……」

どうしてそんなことを聞いてくるんだろう?

私は一層首を傾げた。


……まさか、お昼ごはんを奢れとか言われるんじゃないでしょうね?

もしくはパンを買って来いってパシられたりとか……。

私の頭の中には、そんな考えが過り不安が大きくなった。


「弁当?」

「う……ううん、今日は学食に行こうと思ってて」

私が答えると彼は、安心したように、それでいて嬉しそうに瞳を輝かせている。

そんな彼を見て、私の不安はより一層大きくなった。


……もし『奢れ』って言われたり、パシられそうになったらきっぱりと断ろう。

こういうことは最初が肝心だもんね。

私は自分にそう言い聞かせて、固く心に誓った。

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