第19話
「でも、さっきおじいちゃんが言ってたでしょ。『いつでも誠実に人と接していれば必ずそれに気付いてくれる人はいて、手を差し伸べてくれる』って」
「えぇ」
「だから私は他人に対して誠実でいたいと思ったの」
「だからきちんとお断りするのね?」
「うん。私はまだ誰かを好きになったことがないからあまり分からないんだけど、きっと彼は勇気を出して私に気持ちを伝えてくれたんだと思う」
「うん」
「それなら私もきちんと向き合って、付き合う気がないってことを伝えるべきだと思うんだけど」
「そう」
「おばあちゃん」
「なぁに?」
「私の考えは間違ってるかな?」
私は自分が出した結論に自信が持てなかった。
そうすることがいちばんいいって思う反面、それが本当に正しい結論なのかが分からない。
おばちゃんの返事を待つ私は、ドキドキしていた。
「いいえ、そんなことはないわよ。告白してくれた人に対してきちんと向き合ってお断りをする。それが朱莉なりの誠実な対応だと思うんでしょ?」
「うん」
「それならなにも間違っていないわよ」
「本当に?」
「えぇ」
おばあちゃんが優しい顔で頷いてくれたから、私はホッと胸を撫で下ろした。
「ごめんね、おばあちゃん」
「どうして謝るの?」
「せっかく週末に彼をこの家に呼んでもいいって言ってくれたのに」
「そんなこと気にしなくていいのよ。その代わり、朱莉に好きな人ができた時はおばあちゃんにも教えてね」
「うん、分かった」
「約束ね」
「うん、約束」
私はおばあちゃんに小指を絡ませて誓った。
◇◇◇◇◇
今日はおじいちゃんの家に泊まることにした私は、私専用にしてくれている部屋にお布団を敷き、そこにゴロリと横になった。
高校の入学式。
知らないクラスメイト達。
生れて初めてされた告白。
今日はいろいろなことがありすぎてとても疲れてしまった。
寝る前に明日の準備をしないといけないけれど、もう動く気がしない。
……というか、動けない。
本当ならば無事入学式を終え、私はホッと胸を撫で下ろし明日からの新しい生活に少しの不安を感じつつも期待に胸を弾ませているはずだった。
今日の朝までは確かにそんな自分を想像していた。
でも実際は明日学校に行くのが少し憂鬱な私がここにる。
それはもちろん百鬼 大翔と話しをしないといけないからで、ただ普通に話すだけだとしても気持ちは沈むのに、私は告白に対し断るための言葉を彼に伝えないといけない。
素直に『お付き合いはできません』と伝えていいものなのか。
それともオブラートに包んで遠回しに伝えた方がいいのか。
私にはそれすらも分からなかった。
「……イヤだな」
私は溜息交じりにひとり言葉を呟いた。
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