第12話
◆◆◆◆◆
「朱莉、今日の入学式はどうだった?」
おじいちゃんの声で私は現実に引き戻された。
「えっ?」
「高校の入学式は今日だったんだろ?」
「うん」
「どうだ? 馴染めそうか?」
おじいちゃんは心配そうに私の顔を見つめている。
今日、おじいちゃんが私にそう尋ねることは予想できたことで
だからこそ私はこの質問に
『うん、もう新しいお友達ができたんだよ』
そう答えたかった。
でも残念なことに私はまだ友達ができていない。
百鬼 大翔に告白された私は必死であの場から逃げ出した。
それは命を狙われている小動物の如く私は逃げた。
どこまでもしつこく追いかけてきそうな鬼……じゃなくて百鬼 大翔は意外にも追いかけてくることはなかった。
それでも私は教室まで震える足で走った。
ううん、正確に言えば怖すぎて走ることを止められなかった。
なんとか教室に入り、自分の席に座ってからも私はずっとビクビクしていた。
いつ、またあの鬼が現れるかもしれない。
今だってあの鬼は隣の教室にいるんだ。
そう思うと気が気じゃなかった。
そんな私は友達を作るどころじゃなかった。
入学式が終わるまでどうやってクラスメイトに声を掛けようかとそればかり考えていた私の頭の中は、あの事件の後からずっと鬼にたいする恐怖心に支配され、占領されてしまっていた。
「朱莉?」
おじいちゃんの問い掛けに答えずに黙り込んだ私をおじいちゃんはさっきよりももっと心配そうな表情で見つめていた。
「う……うん、大丈夫。多分、すぐに馴染めると思うよ」
私は慌てて笑顔を浮かべると、そう答えた。
「そうですよ。心配しなくても朱莉ならすぐに馴染めますよ」
トレーにご飯とお味噌汁を載せて台所から食卓テーブルにやってきたおばあちゃんが自分の席に腰を下ろしながら口を挟んでくる。
私の前にご飯とお味噌汁を置いてくれたおばあちゃんが
「さぁ、いただきましょう」
そう言って、私とおじいちゃんは手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
おじいちゃんの声と私の声がピタリと重なると
「はい、召し上がれ」
おばあちゃんはクスクスと小さな笑いを零した。
お味噌汁のお茶碗を手に取りそれを口に運ぶ。
おばあちゃんが作ってくれたお味噌汁は口にすると、とても優しい味がして私は安心感を覚えた。
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