第11話
「あっ、因みに俺は隣のクラスだから」
不意に彼がそんなことをさらりと告げるから
「そ……そうですか。……はい? 隣のクラス!?」
危うく私は聞き流しそうになってしまった。
だけどこれは絶対に聞き流しちゃいけない情報だということに本能的に気が付いた私は彼の顔を凝視した。
私にガン見された彼は
「どうした?」
怪訝そうに私を見下ろしている。
「隣のクラスって……なんの話ですか?」
「なんの話って、俺が朱莉の隣のクラスって話だけど」
……えっ? それって……
「あなたも一年生ってこと!?」
「うん、そう。1年B組 百鬼 大翔です」
「……1年B組 ナキリ ダイト……」
思わぬ情報に仰天した私は、片言の日本語で彼の言葉をオウム返しすることしかできなかった。
そんな私とは対照的に自己紹介をした彼はどこか満足そうに笑っている。
しかも
「そうそう、漢字は“百匹の鬼が大きく翔ぶ”で百鬼 大翔ね」
別に私が望んでいる訳じゃないのにそんな情報まで教えてくれた。
へ~、“百匹の鬼が大きく翔ぶ”で百鬼 大翔か。
珍しい苗字なんだ。
ん?
ちょっと待って。
……百匹の鬼が大きく翔ぶ!?
……なにその苗字……
怖すぎるんですけど!?
百匹の鬼が大きく飛び跳ねる光景を想像した私は恐怖に慄【おのの】いた。
かなり怖いこの人にその恐ろしすぎる名前はあまりにもぴったり過ぎて、いろんな意味で私の恐怖心は倍増してしまった。
「朱莉」
「は……はい」
「今日からよろしくな」
完全にビビりあがっている私に百鬼 大翔は口端を引き上げた。
それはどうやら笑いかけているつもりらしいけど、私には鬼が獲物を前に舌なめずりをしているようにしか思えなかった。
一刻も早くこの場から逃げなきゃいけない。
そう考えた私は、告白を断るという最重要事項を諦め
「は……はい」
なんとかコクコクと首を縦に振ると適当に別れの言葉を言って、その場から逃げ出した。
テンパりすぎて、自分がなんて言ってその場を離れたのかも分からない程、私は狼狽していた。
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