第10話

私の言葉に満足そうな笑みを浮かべる彼の耳ではシルバーのピアスが陽の光を浴び、キラキラと輝きを放っている。


思うように断ることができなかった私は落胆していた。

そんな絶望に似た想いを抱く私とは対照的に彼はなにがそんなに嬉しいのか惜しみなく笑顔を振り撒いてくる。


「じゃあ、小櫻サン今日からよろしくね。あっ、付き合うんだから苗字じゃなくて朱莉【あかり】って名前で呼んでいい?」

ものすごい勢いで関係の距離を詰めてくる彼に私はとてもじゃないけど着いて行けずにいた。

「名前で?」

「そう。だって苗字呼びだと他人行儀な感じだし」


……いやいや、付き合うってなっても他人ってことには変わりがないし。

私はすかさず心の中でツッコみを入れた。


「だから朱莉って呼んでいいよね?」

赤の他人同士なんだから、他人行儀でも全然いいはずなのに彼はそれがあたかもいけないことのような言い方で許しを乞いてくる。


グイグイくる彼に完全にドン引きしながらも私は疑問を感じていた。


「……なんで……」

「うん? なにが?」

「どうして私の名前を知ってるんですか?」

「朱莉のクラスの奴に聞いた」

「私のクラスの人?」

……あれ? でも私のことを知ってる人なんていないはずだけど……。

「そう。朱莉のクラスに俺の友達がいるんだよ」


……ん? この人って先輩だよね?

彼が言う友達って後輩ってこと?

疑問はたくさん浮かぶけど、今の私にはそれを確かめる勇気はなかった。


だから結局は

「……そうなんだ」

そう呟いて納得したふりをすることしかできなかった。

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