第6話

予想外の状況に遭遇するというのがとても苦手だったりする。


予想外のことが起きると、完全に思考が停止してしまうし、その所為でその場を乗り切る手段を考えることもできないし、的確な言葉も出てこない。

こんな時に私ができることと言えば、黙り込んだまま立ち尽くすことぐらいしかない。

今回もまた黙り込んだまま立ち尽くしていると


「あんたって一目惚れって信じない人?」

彼は腰を少し折って、私の顔を覗き込んできた。

その距離の近さに私は驚き完全にテンパってしまった。


物心がついてから今まで女子高に通っていて、ただでさえ男子に対して免疫がない私にこの距離は無理以外のなにものでもない。


「……さぁ、どうでしょう?」

私は目を泳がせながら曖昧な言葉を紡ぐ。


「分かんねぇの?」

不思議そうに尋ねられ、私は困惑した。

ぶっちゃけ、私は一目惚れというものがどういうものなのか分からない。

だってそんなことを経験したことなんてないし……。

だから分かるか分からないかで言えば、そんな感覚なんて全然分からない。


「は……はい」

「自分のことなのに?」

「えっ? ……あっ、ごめんなさい」

「はっ? なんで謝んの?」

「……私、一目惚れなんてしたことがないので……よく分かりません」

「あぁ、そうなんだ」

「はい……ごめんなさい」


「まぁ、いいや」

そう言いながら彼の視線が私の顔から頭上の方へ動く。

……なんだろう?

私はその動きに違和感を覚えた。

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