第3話

◇◇◇◇◇


……とりあえず誰かに話しかけてみた方が良くない?


教室に移動した私は、周囲に視線を巡らしながらそんなことを考えていた。


このままだとなにをするにしてもひとりで行動しないといけなくなる。

運が良ければ誰かが声をかけてくれるかもしれないけどそれを待っているだけではリスクが大きすぎる。


……ここは勇気を出して私の方から話しかけてみた方が絶対にいい。


そう考えた私は周囲を見渡してみた。

でも誰にどう話しかければいいのかが分からない。

……困った。どうしよう……。


既にグループになっているところに自ら突き進んで行くのはかなり難易度が高い。

できればひとりでいる人の方がいいよね。

脳内で作戦会議をした結果、ターゲットを“ひとりでいる人”に設定することができたけど

「これから入学式なので体育館に移動します。廊下に出席番号順に並んでください」

タイミングが悪過ぎた。


……大丈夫。きっとチャンスはまだあるはず。

とりあえず作戦決行は入学式が終わってからにしよう。


気分が落ち込みそうになっている自分にそう言い聞かせながらも、作戦の一時中止を決めた私はクラスメイトに紛れ込むようにして教室を出た。


入学式の間も私は

……誰かに話しかけないといけない。

そんなことばかり考えていた。

新入生代表や在校生代表のあいさつや校長先生や来賓の話があったはずなのに、私はそれらが全く耳に入らず、記憶に残っていなかった。

そして入学式は何事もなく終わり、私達1年生は教室に戻ることになった。

体育館を出る時は男女各一列に並んでいたけど、体育館を出てしまうとクラス関係なくそれぞれが仲の良い友人たちと連れ立って教室へと向かう。

その状況に私はまたしても焦燥感に駆られた。


……早く、誰かに話しかけないと……。


そうだ。ひとりの人に話しかけるって作戦会議で決まったんだった。


脳内会議で決まったことを思い出した私は、キョロキョロと周囲に視線を巡らせる。

その時だった。

強い風が吹き、満開の桜の木から花弁が勢いよく散った。

花弁が視界を桜色に埋め尽くし、私は風に煽られる髪を手で押さえながら目を瞑った。


「小櫻さん」

不意に名前を呼ばれて、私は閉じていた瞼を開く。

するとそこにはひとりの男の子が立っていた。

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